「アジア会議」2020年7月29日 講師/澤田 克己 毎日新聞元ソウル支局長・論説委員

2020年07月29日
  

「ポストコロナの韓国情勢と日韓関係」

 文在寅大統領の支持率は不動産高騰への対策失敗とソウル市長のセクハラ疑惑が打撃となり、下落傾向が続いている。

 自殺した朴元淳ソウル市長は、韓国初のセクハラ訴訟の勝訴を勝ち取った人権弁護士で、女性の味方というイメージがあったが、9年間の市長在任で帝王化し、死後にセクハラ疑惑が表面化した。政権与党幹部の仲間をかばうような言動に批判が集中。任期4年目の第一四半期の支持率40%台は、歴代政権と比較して高い部類ではあるが、当面、支持率を好転させる要因は見当たらない。

 今回のコロナを機に韓国は検査体制を一気に拡充し、軽症者療養施設の整備で医療崩壊を回避したことで先進国になったことを確信。日本に対してはかつてのコンプレックスの裏返しか、優越感を抱くようになった。韓国のコロナ対策が成功したのは、MERSの教訓を生かして体制整備を進め、迅速な検査キット開発が可能であったこと、冷戦体制下で国民総背番号制が浸透しており、防疫対策で個人情報に制限を加えることについて緩やかな社会的合意があったことが大きい。また、韓国人の気質として、良くも悪くも初動が早く、政府や財閥の研修施設を軽症者用隔離施設としてすぐに利用できたこともある。

 コロナ克服と総選挙の圧勝で自信を深めた文政権は、今後、国内改革と南北対話を進めていきたいと考えている。しかし、北朝鮮が期待通りに動いてくれる見通しはなく、米中が対立するなか、韓国は苦しい立ち位置に陥りかねない。米大統領選の結果如何では米朝関係に大きな変化もあろう。

 日韓関係は、かつて日本がすべての面で勝っていた時代から、今では韓国に既に追い越されている分野も少なくないという事実を認め、国際社会の中での日本の立場、強み、弱みを冷徹に把握しなければならない。わが国にとってはかなり難しい局面が続くだろう。

 澤田氏は、このほか、韓国ドラマに描かれる“異文化”としての北朝鮮、韓国メディアの日本報道について解説。「韓国メディアの日本語版は日本でアクセス数を稼げる記事が翻訳されているだけで、あくまで広告モデル。決して韓国メディアの縮図ではない」と持論を述べた。さらに、慰安婦問題を巡る構図については、正義連・尹美香前理事長のスキャンダルはあっても大きな変化はないとの見解を示した。