「中国による台湾侵攻は起きるのか?ー中台関係の構造転換とナッシュ均衡ー」
台湾海峡の「現状」は、米国の圧倒的な軍事力と台湾関係法による抑止、中台の交渉が不成立であったために長きにわたって維持されてきた。現状維持のメカニズム、いわゆるゲーム理論における非協力ゲームの解の一種であるナッシュ均衡はいまだ存在するが、この20年、経済成長で力をつけた中国の台頭により台湾の対中依存度が増し、現状変更圧力も増大した。いまでは半導体などハイテク企業も中国に進出し、台湾住民の100万人弱が仕事や留学、就労で中国大陸に長期滞在している。
馬英九政権が台湾の繁栄を優先して中台関係の改善に向けて観光業を促進した結果、台湾内部で台湾人としてのアイデンティティが増大し、現状維持に逆戻りした。さらに、過去2年で香港情勢が悪化し、新型コロナウイルス感染拡大を機に台湾内部で対中反発・嫌悪感は高まっている。この3年間、米国による対中プッシュバックの強化により台湾海峡の緊張は高まっており、中国の台湾への武力行使が懸念されるが、中国にとってはリスクが大きすぎ、少なくとも習近平三選が確定する2023年以前に武力行使に踏み切ることはないだろう。ただし、武力行使の現実味を持った言動は維持する見込みだ。習近平三選後に中国に台湾への武力行使、もしくは「平和統一政策2.0」に踏み切る条件を整えさせないようにすることが重要だ。
松田氏は、米中関係が安定した中で台湾の自立を求めて失敗した陳水扁政権、繁栄を優先して失敗した馬英九政権、米中が対立するなかで、自立と繁栄を両立しようと奮闘する蔡英文政権について説明。また、米日への依存から中国依存に転じた台湾が、いまだ一人当たりGDPが中国より多い現状についても言及した。このほか、豊富な統計を用いて台湾海峡をめぐるナッシュ均衡、台湾の自立と繁栄のディレンマ、中台の軍事バランス、中国による限定的武力行使の蓋然性などについても解説。「台湾海峡の現状維持は、米国のコミットメント確保、日米同盟の強化、支援による台湾住民の孤立感を払拭することで可能」との見方を示した。