『近づく「台湾有事」を、台湾社会の文脈で読み解く~安倍氏死去・ペロシ訪台・中国軍事演習の衝撃と影響』中国の大規模軍事演習の結果、台湾には一国二制度方式による平和的統一は幻想であるとの認識が広まり、「統一派」の大物経済人が対中批判を表明するなど、中国への警戒感が強まった。来年度国防予算案は過去最大となり、ロシアのウクライナ侵攻でウクライナの奮戦をみて、台湾人のなかに「民間防衛」という概念が急速に広まっている。多くの台湾人が、大国が隣の小国を蹂躙する現実を目の当たりにして恐怖を感じるとともに、「次は台湾人ではないか」との意識を強くした。香港情勢、ウクライナ問題、中国の軍事演習を経たこの3年間で台湾社会のキーワードは、「自己国家自己救」(自らの国は自らが救う)から「抗中保台」(中国に抵抗し、台湾を防衛する)にアップデートされた。
日中国交正常化50周年にあたる今年は日台断交50年でもある。現在、「日中友好」がもはや死語となっているのに対し、日台関係はすこぶる良好だ。台湾メディアは日本の対応を常に意識しており、安倍元首相の死は大きく取り上げられた。一方で、安倍氏の神格化と安倍氏の遺した「台湾有事は日本有事」の言葉が独り歩きしている現状がある。台湾社会の日台関係への期待が高まる反面、日本における統一教会問題への批判や国葬反対世論については十分に理解されておらず、その情報落差は失望に変わり、良好な日台関係に悪影響を及ぼす可能性もある。
中国共産党大会では党規約に「台湾への武力行使を放棄しない」「徹底して台湾独立に反対し、阻止する」ことが盛り込まれ、台湾を牽制。人事面では台湾との交流を担った穏健派が指導部から姿を消し、台湾では「戦時内閣」ではないかと懸念する声も挙がっている。
「台湾ナショナリズム」が発揮される「国政選挙」という位置付けの2024年の台湾総統選は民進党がなお有利になろうが、11月26日の統一地方選は長期政権への飽き、批判もあって民進党不利になるだろう。
野嶋氏は地方選、総統選の候補者のプロフィール、中国の第三国での情報工作の実態などについても詳細に解説。先の中国共産党大会における人事配置などにみる前近代的なやり口をみて「国際的常識とはかけ離れた中国の動向を読み解くには習近平のプロファイリングが不可欠」との見方を示した。