「政民東京會議」2022年12月14日 講師/田中 均 元外務審議官・日本総合研究所戦略研究所顧問

2022年12月14日
  

「中国と北朝鮮情勢について」

 中東における二つの戦争以降米国の抑止力が低下したことにより、国際関係は大きく変化した。2月のロシアのウクライナ侵略は、過去の両国のひずみが露呈したに過ぎない。米の対外政策はブッシュ政権以降、精彩を欠いたものになっている。とくにバイデン政権下では顕著で、経済制裁の多用が常態化しており、米国の対外政策は大きく転換したと言えるだろう。

 問題解決のための経済制裁だが、制裁は解除することが難しく、北朝鮮、イラン、ロシア然り、グローバリゼーションがもたらした相互依存関係が崩れ、世界の分断が進む現状を生み出している。米の抑止力が落ちた以上、NATOや日本が同盟関係を強化するのは自然な流れだが、日本は先の大戦以後戦争をしておらず、岸田首相の掲げる防衛費43兆円は唐突で、反撃能力への充分な議論もないまま認められることになれば将来に禍根を残す。。防衛力を高め、抑止力を強化することは重要だが、日本単独では無理だ。米の抑止力を最大限活用できるという日本の強みを踏まえ、同盟関係の強化に立ち戻るべき。

 中国は、先の党大会で習近平が対抗勢力を排除し、権力集中を完結させた。中国内のルール変更によって、今後中国社会は混乱し、その影響は日本にも及ぶだろう。共産党にとって監視社会の強化につながった中国のゼロコロナ政策は事実上失敗し、一気に反体制運動へと発展した。政府も看過できず、ゼロコロナ政策は緩和されることとなった。

 先の米中首脳会談は両国が対決を望まない姿勢を打ち出すものであり、両国の関係は<対立><競争><共存><協力>の4つの側面でコントロールされていくことになるだろう。

 ロシアのウクライナ侵略が起こるまでは、朝鮮半島が米中の協力が前進する可能性があり、逆に台湾は米中対決の場になる可能性があったが、先の台湾統一地方選で民進党が惨敗。中国は国民党が政権を奪取するのを見守り、ただちに緊張状態が高まることにはならないのではないか。

 田中氏はこのほか中国が嫌がる北朝鮮の核保有シナリオなどに言及し、韓国、台湾、日本で核武装、核シェアリングの議論が始まっている実状についても解説した。また、経済安全保障についても触れ、「日本が繁栄するためには、米国を凌駕する中国という巨大マーケットを阻害してよいものだろうか」との見方を示した。