「政民東京會議」2023年1月11日 講師/兼原 信克 同志社大学特別客員教授・元内閣官房副長官補兼国家安全保障局次長

2023年01月11日
  

「習近平新体制と台湾有事への備え」

 

 台湾有事の議論が日米で活発化している。10年前と異なり、日中の国力は拮抗している。かつて米国は中国の経済規模の3倍といわれていたが様変わりだ。リーマンショック以降中国は強気になり、いまや地域の軍事情勢を見る限り形勢は逆転し、米中の国力は、中国優位だ。台湾有事は数年後になるか、習近平政権の末期になるのか。米国は本格的な対中防衛力の構築に入った。

 台湾は中国の一部という指摘は当たらない。台湾はマレー系民族の島で、中国の台湾支配は200年程度に過ぎず、そもそも「中国」という言葉自体20世紀に生まれた言葉だ。中国はウィグル、チベットを共産主義の下に占領したが、共産主義は彼らのアイデンティティにはなりない。住民の9割が自らを「台湾人」と捉えるようになった台湾は中国にとって脅威であり、習近平としては台湾の独立を決して認めるわけにはいかないのだ。

 習近平政権は3期目に突入し、新指導部の顔ぶれは習近平に近い人物のみとなり、もはや習近平の暴走を止めるものはいなくなった。権力機構は強大で、あと20〰30年独裁体制は続くだろう。中国独裁政権の劣化こそが、台湾有事の最大のリスクだ。

 いざ台中戦争が起これば、米国は核を使わせないため、本気で参入はせず、局地戦になることが予想される。そうなれば最前線に立つのは台湾と日本で、先島諸島、沖縄、鹿児島にも被害が及ぶ。多くの自衛官が死に、百兆円規模の損失は必至だ。戦争を起こさないために、わが国は外交、経済、軍事のバランスを取り、米国をうまく惹きつけて対等な関係に持ち込み、利益を調整していく必要がある。

 兼原氏は台中戦争のさまざまなシナリオについて解説した。安倍元首相が提唱した『自由で開かれたインド太平洋』構想を「世界中で好意的に受け入れられた日本外交の構想」と評価しつつも、「わが国には構想をバックアップすべき軍事戦略がない」と指摘。また日韓が米の核の下にあるのに対して台湾が外れていること、AUKUSの本質が軍事協力と最先端の科学技術力にあることなどについても解説した。このほか、安保3文書について「10年前の安倍政権時から構想してきたものが形になった。防衛産業政策にも40年ぶりに斬り込んだことは画期的」、岸田政権についても「安倍政権で取りこぼした軍事力増強に取り組んでいる」と評価した。