「政民合同會議」2019年9月11日(水) 講師/井上達夫 東京大学大学院法学政治研究科教授

2019年09月11日
  

『幻想の保護膜に包まる「少年国家」日本-米国信仰と九条信仰の同根性』

 日本は戦後70年経っても成熟した立憲民主国家にはなっていない。かつてマッカーサーは「日本人12歳」論を唱えたが、文化的精神年齢に関しては無知な軍人の暴言であるにせよ、政治的精神年齢については、残念ながら戦前戦中の軍国主義時代と占領期から現在に至るまで当たっており、右も左も、学者もメディアもこの状態に甘え切っているのが実状。保守改憲派は「日米安保で60年間日本がただ乗りしてきた」、護憲派は「九条が戦後日本を平和国家にした」というがどちらも幻想だ。
 憲法九条問題と安全保障問題が、戦後日本が「政治的発達障害」に陥った原因である。日本を立憲民主国家として成熟させるには、9条2項を残したまま自衛隊を明記して憲法を論理的に自殺させる安倍改憲案に代わる、もっとまともな九条改正をした上で、日米安保の歪みを正して対等化せねばならない。
 日米安保は米国にとって日本を防衛するよりむしろ米国の世界戦略拠点を確保するためのものであり、在日米軍基地と高度な兵站システムを米国は日本の防衛に無関係ないし有害でさえある他国への軍事干渉のために自由に使え、その維持コストを日本に転嫁、さらに日本にとって不必要な巨額の武器を言い値で日本に買わせているのが実態だ。また、日米安保条約には自動執行性がなく、日本が他国に侵攻されたとしても米国政府は国会の承認が得られないという理由で出動を拒否できる。日米安保体制を対等化するには自衛隊を日本の防衛を担う戦力として明示し、戦力統制規範を憲法に盛り込むための9条2項の明文改正が不可欠だ。米国の言うことをすべて聞く「隋米」ではなく、「親米」でも「反米」でもない「警米」の姿勢が強く求められる。
 護憲派が「九条のおかげで他国を侵略せず、侵略もされなかった」というのも間違った認識だ。米軍のベトナム戦争・イラク侵攻等の幇助犯であったのは間違いなく、日本は米軍への基地・兵站提供自体によって、国際法上、その侵略の加担者とみなされ、中立国としての保護を剥奪されている。しかもいまの安保体制下では、在日米軍基地から米軍機・米戦艦が出動する場合も第三国を経由する場合は日本政府の同意はいらない。日本は自分の意志に関わりなく米国が勝手にはじめた侵略の幇助犯にされてしまう。日本が侵略されなかったのは九条違反の自衛隊安保が存在したからだ。
 最大の問題は、九条が戦略を縛るどころか、九条があるため戦力は存在しないという建前により戦力統制規範を憲法に盛り込むことができない、九条こそが、戦力の既成事実を憲法の外で肥大化させていることである。この事実から目を背け、「憲法が日本を守ってくれる」という九条幻想に避難していられるのは「いざとなれば米軍が守ってくれる」という米国信仰に浸っている証左だ。
 わが国が米国の指導下から抜け出し、世界有数の武装組織である自衛隊を憲法で統制し、自立と試練の道を勇気を出して踏み出さねば、立憲民主国家としての未来はない。