10月30日「アジア安保会議」講師/柯 隆 東京財団政策研究所主席研究員

2024年10月30日
  

「習近平の正念場ー中国経済の急減速と高まる対米緊張」

 世界主要国で政治のリーダーシップが弱まるなか、日本国内の政治はどうなるのか。米大統領選が迫り、北朝鮮のロシア派兵もあり、問題は山積。中ロはますます接近し、地政学リスクも懸念される。こうした安保会議はますます重要な場となるだろう。

 中国経済の失速で雇用情勢が悪化し、深圳の日本人男児刺殺事件をはじめ、中国全土で通り魔事件が多発している。この事件は日本国内への注意喚起を怠った外務省にも責任があると言ってもよい。

 日本がコロナ禍で企業倒産が少なかったのに対し、中国はゼロコロナ政策でこの3年で中小企業4百万社が倒産、若者の失業率は18%弱とされるが、実際にはこの倍とみられる。不動産バブルは崩壊し、消費、投資、国際貿易とも落ち込んでいるのが実状だ。

 国が不動産を管理していた中国では元々不動産投資はなかったが、日本の定期借地権の概念を導入して不動産開発が激化し、投機筋が加わって不動産バブルが起こった。地方政府は運用する年金基金の資金繰りに困って金融緩和を行った結果、株価は一時的に上昇したが、いまだ中国経済に回復の兆しは見られない。

 岸田政権発足当時、岸田前首相は「したたかな外交」を掲げていたが、3年間日中外交に進展はなく、石破新政権の外交手腕には疑問が残る。8月には二階氏ら日中友好議連が訪中したが、人脈外交はいまや時代遅れのものになりつつある。しかし今後の日中外交を悲観視する必要はない。

 日本在住36年という柯隆氏。「中国人は面子を潰されるのを何よりも嫌がる。いかに面子を潰さず実利を取るかだ」として、中国で拘束された日本人の共通点を挙げ、穏便に中国でビジネスを行う秘訣などについて語った。中国の台湾侵攻の可能性については、中央政府、地方政府の財源不足や中国高官の子女が学ぶボストンなどで表立った動きがないことなどを挙げ「その可能性は低い」と予測した。先に行われた大規模な軍事演習についても「台湾への威嚇もあるが、国内のナショナリズムへのアピールの側面が強い」と分析した。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。