12月19日「アジア安保会議」講師/福田 円 法政大学法学部教授

2023年12月19日
  
「中台関係の行方を語る」

 台湾総統選まで1ヵ月を切り、民進党の頼清徳・副総統、国民党の侯友宜新北市長、柯文哲前台北市長の三候補による選挙戦は終盤に入った。「民主か、専制か」を問う与党・民進党に対し、「戦争か、平和か」を掲げる最大野党・国民党、二大政党を批判する民衆党という構図だ。民衆党はイデオロギー闘争からは距離を置き、若者層に受ける国内政策を争点に挙げている。

 総統選は民進党・国民党の一騎打ちになることは必至で、頼清徳候補が有力とみられるが、どちらも立法院で過半数を獲得することは難しく、若者・中間票の獲得が鍵となるだろう。

 頼清徳の支持率は安定しているが、“独立寄り”であることから、候補者として一番人気でも、若年層からは投票したくない候補の一位となっており、無党派層獲得に苦戦しているのが現状だ。対する侯友宜も国民党の伝統的な支持者の票固めに不安を抱えている。高い失業率、物価・不動産の価格高騰など若年層の不安は溜まる一方で、民進党にだけは投票したくないという層が第三の党である民衆党に流れているのではないか。

 選挙の最大の論点は対外路線であり、頼候補の対外政策が蔡英文路線を踏襲したものになるかに注目が集まる。蔡英文路線とは中華民国と台湾は同等の位置付けで、中華民国も台湾もあっていい、現状維持ができればいいというスタンスで、いまの台湾の実態に合っていた。しかし、蔡英文政権下で外交関係保持国は減少し、国際機関からの締め出しにもあった。本来民進党は綱領に台湾共和国をつくることを究極の目標に掲げる政党。頼清徳が総統になれば中国を刺激するのではないかと米国は不安視している。

 習近平政権は、今年に入ってこれまでの外交・軍事圧力をトーンダウンさせる一方、台湾懐柔のため、地域の宗教団体や首長を招待するなど大規模な交流を復活させている。これが個人の投票行動にどれだけ影響があるかは不透明だ。

 このまま選挙戦が進めば、少ない得票率で民進党が勝利するだろうが、過半数獲得は難しく、立法院では分割統治となるだろう。就任式までに新総統がどういう方針を打ち出すか、その空白期間に中国が圧力をかけてくる可能性もある。