「米中新冷戦と日本」
日本国内で政治が混迷を極める中、8月に日中のGDPは逆転し、日本は世界3位に転落した。しかし、このことを深刻に受け止める政治家、文化人は少ない。この30年間中国は毎年8%の成長を続ける一方、日本は8年連続で減少し、いまや香港、台湾にも抜かれつつある。また、米国が9.11以降、パートナーシップとしての対中政策を推進する中、中国はそれに乗じて急速な軍拡を遂げてきた。米ソ間での冷戦終結後も東アジアには北朝鮮、中国に共産体制が残り、いまだ冷戦構造が残っているといってよい。
中国は南シナ海、南沙諸島も自らの領土にしようと数十年の長期計画でしたたかに世界戦略を進めている。北極圏、南極圏にもガスや石油、レアメタルなどのエネルギー資源の獲得を目指し、南極には3つも基地を構えるなど積極的だ。一方、日本はせいぜい気象観測程度であり非常に消極的だ。
また、人民元の切り上げについても少しずつ応えてみせるなど戦略的な姿勢を示す反面、人民元の国際化も図っている。日本は中国人観光客が増えたと手放しでは喜んでいる場合ではない。中国の進出に手をこまねいているとそのうちアジアの共通通貨は人民元となり、中国社会に呑み込まれることにもなりかねない。中国の世界戦略は大学レベルの文化戦略においても、中国語教員を諸外国に派遣したり、東北の省に至るまでアフリカからの留学生を積極的に誘致するなど徹底的だ。日本の学者、ジャーナリストに至るまできめ細かい対日工作が行われているものとみられる。
中国は国内に貧富の拡大など様々な社会的矛盾を抱えているが、経済が発展し続け、強力なリーダーも天安門事件以降不在で、現体制が崩れる見込みはいまのところない。
こうした中国の脅威にアメリカもようやく目覚め、現オバマ政権下でダライラマとの会見を実現させたり、8月には中国の軍事力と安全保障の進展に関する年次報告書を出し、中国の軍事的拡大を脅威と見なす方向に動き出した。また台湾関係法をつくったり、台湾への武器輸出を決めるなど大きく政策転換している。
こうした状況下、肝心の日本だけが中国の脅威に目覚めていない。集団的自衛権の問題もそうだが、民主主義の価値観を共有し、親日である台湾との協力関係を深めることは重要な意味を持つ。日本は日台協力関係を構築するとともに、中国の本質を見据えた対中政策をとらなければならない。