「国際情勢と日本外交」
米大統領選挙は接戦模様だが、これほどまでに両候補の好感度が低く、明確なメッセージが伝わってこず、盛り上がりに欠ける大統領選挙も珍しい。トランプ候補への批判材料は事欠かないが、対するクリントン候補にもメッセージがなく、健康問題もある。米国はいまだ世界一の強国だが、国内の世論もあって世界の警察官の看板を降ろした。オバマ大統領の拙い振る舞いは世界の混沌を招き、IS国の考えに共鳴したテロは今後も世界に拡散していく惧れがある。わが国のメディアは日本の外交を「弱腰」、中国の外交を「したたか」と形容しているが果たしてそうであろうか。南シナ海問題で中国のイメージは失墜し、中国外交は失策続きで「なりふり構わず」に転じている。米国内での中国への風向きも変わり、日米関係の重要性が再認識されるに至った。先の日中首脳会談で習近平体制になって初めて2008年の日中東シナ海油ガス田合意が確認された。わが国は今こそ、この合意の実施を主張すべきだ。日本はASEAN諸国からも圧倒的に期待されている。度重なる核・ミサイル実験で国際社会は慣れっこになり、北朝鮮への関心が低下しているが、濃縮ウランの開発など深刻な状況であり、国際社会は単なる制裁にとどまらず、真剣に北の脅威に向き合うべきだ。
薮中氏は、米国は大統領選後1年の権力の空白期間ができることを危惧したうえで「対米関係だけを重視する時代は終わり、日本もリーダーシップを発揮し、中国も巻き込んで国際社会の問題解決にあたる必要がある」と強く訴え、「安倍政権のリーダーシップに世界も注目しており、長期政権は外交上、戦略性からみても重要だ」と述べた。
その後の質疑応答でもとくにマスコミ関係者から北方領土問題の進展、米国にとっての中国の重要性、暴走する中国に日本がどう対応していくかなど、様々なトピックに関する質問が寄せられ、氏はこれまでの外交官としての経験、見地からユーモアを交えながら独自の見解を述べた。