「政民合同會議」2016年2月8日(月) 講師/若宮啓文 日本国際交流センターシニアフェロー    元朝日新聞社政治部長、論説主幹、主筆

2016年02月08日
  

『日本の「賢い道」を探る』



 戦後の保守外交は、アジアとの和解をいかにナショナリズムとバランスを取りながら進めるかに腐心した歴史だった。日中、日韓に大きな和解の動きがあると、ほぼ同時に建国記念日を決めたり靖国公式参拝をしたり、そんなことの繰り返しだった。
 戦後70年の安倍談話には、いわばそんな姿が凝縮されており、和解とナショナリズムの「斑模様」だった。もともとアジアへの謝罪を目指した村山談話の塗り替えが目的だっただけに、日露戦争を含めて近代日本の栄光を称えたのが特徴だ。一方で曲がりなりにも「植民地支配」「侵略」「痛切な反省」「おわび」という4つのキーワードを全て盛り込み、世界には「村山談話を継承」と印象づけた。よく読めば、韓国の植民地支配に全く配慮がないなど、単純に継承とは言い難いが、国際的には「継承」と評価されたのだから、安倍首相も複雑な心境だろう。世論の大きな分断を避けようと、最大公約数的を狙ったとも言える。

 評価したいのは、満州事変以後、「日本が新たな国際秩序への挑戦者になった」と明言したことで、これは「アジア解放の戦争」という右派の歴史観と決別している。現在の「挑戦者」である中国への警鐘とする意図も読み取れるのはよいが、それを持論の「価値観外交」や「積極的平和主義」に結び付けたのは短絡的で、我田引水の感がぬぐえなかった。

 若宮氏は以上のように「安倍談話」を分析したうえで、これからの平和のために「日米韓」だけでなく「日中韓の枠組」も生かすことを提唱。「共通の絆や利益を確認しつつ、日本は謝罪すべきことは謝罪し、領土問題については現状維持で緊張緩和に努めるべし」などと説き、靖国問題では神社と別に国立慰霊施設の建立が望ましいと語った。

 また、安保法制については「集団的自衛権」の言葉にこだわって突き進んだ安倍政権の強引さを批判。憲法については「9条の下で自衛隊の存在を積極評価するのが得策だ」「戦後の自衛隊を卑屈にさせてきたのは、左派も右派も同罪。9条を平和主義のソフトパワーにすべき」などと、慎重に言葉を選びながら自説を展開した。
 このほか昨年末の日韓合意については「全体として双方がそれぞれ妥協し、現実的な対応をして妥当なものだった」と評価。中国の「反日」については「共産主義イデオロギーでまとめられなくなった分を愛国教育で求心力を高めようとした」面を否定できないと分析。中国や韓国の行き過ぎをたしなめるためにも、こちらから歴史問題で不必要な攻撃材料を与えないことが肝心だと述べた。

 その後の質疑応答では朝日新聞の論調の推移について、自らの記者時代の反省も踏まえながら語った。