「政民合同會議」2017年4月5日(水) 講師/三浦瑠麗 国際政治学者

2017年04月05日
  

「トランプ政権が突き付ける課題」

 

 トランプ氏が大統領選に勝利するまでの言動は極めて戦略的であった。中道の経済政策を掲げながら暴言を繰り返し、メディアにアピールすることで弱腰ではないイメージを作り上げ、結果、党内で自分だけイデオロギーの制約に縛られずに頭角を現すことに成功した。また、反移民言説で有権者が潜在的に持つ保守的な気分を煽り、民主党や無党派に潜む反エリート意識も利用。米国の現状について短期的な悲観主義を煽りながら、将来の米国の運命は揺るぎないとすることで楽観主義を掲げた。高齢かつ政治経験のない新人候補として、既存の政治に大ナタを振るう必要性をアピールすることは必然であった。既存の権力に挑戦することでリーダーに選出されたのはジャクソン、マッカーシー、レーガンから続く米国の伝統でもある。

 トランプ政権の初動は、イスラム七カ国からの渡航禁止令を皮切りに、まず国民に衝撃を与え、息つく暇もなく次々と心理的に攻撃作戦を展開していく、軍事におけるShock & Awe(衝撃と畏怖)戦略に酷似している。メディアが批判を続けているうちに次々と新しい政策や宣言をしていくことができ、有利に立てるという局面もある。

 オバマ政権は米国の“帝国”としての恩恵を、コストをかけずに口先だけで維持しようとする矛盾があった。トランプ氏はオバマ政権を積極的に否定しようとしているが、結局は継承していく方向になるのではないか。

 帝国の地位を保つために安全保障上はイスラム過激主義を叩き、経済的には中国を叩くことが自国第一主義を掲げる米国の目標となろう。

 政治学者として米、英、イスラエルの内政、社会保障などの比較政治研究、現状分析を専門とする三浦氏は、トランプ氏が大統領選に勝利した際の用意周到な戦略、外交政策演説内容、冷静後の米国と国際状況、トランプのリーダー像などについて詳細に分析。このほか世界的に広まるグローバリゼーションの反発を、格差、文化の均質化による各国の伝統や風習の弱体化などの観点から紐解き、そのうえで従来の資本主義への信頼を更新する必要性、新しいニューディールの必要性を強く訴えた。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。