「急変する朝鮮半島情勢と日本の進路」
北朝鮮の地方都市ではインフラの荒廃がひどく、公共交通機関は麻痺し、いまだ道路の多くが舗装されておらず、牛車で物資を運搬する状況にある。その一方で都市部の生活環境の改善は目覚ましく、近年は国家主導で東沿岸部の都市では巨大リゾート施設の開発が進められ、金融業や建築業などの新たな市民経済も生まれている。いま、北朝鮮では旧ソ連邦の崩壊直前のような、社会主義でありながら資本主義が広まっている現象が起きているのだ。
米国CIAは北朝鮮との交渉を本格化するにあたって、コリア・ミッションセンターを設立し、情報収集にかなりの人員、費用を割いている。また、韓国・文政権は南北首脳会談で北朝鮮が触れてほしくない統一問題や人権問題には言及せず、経済協力を強調し、米国への橋渡しも買ってでたうえで韓国の希望を伝えている。わが国は、小泉政権時代に拉致問題が一気に前進したかに見えたが、結局、帰国した拉致被害者も少なく、依然凍結したままだ。各国が北朝鮮との交渉に向けて周到に準備するなか、わが国は様子見に留まっている。北朝鮮との交渉に際しては韓国の交渉法を学ばない限り、拉致問題は動かないのではないか。
金正恩、朝鮮戦争についての著作もある五味氏は、金正恩の生い立ちから成る人間像、考え方を分析。「欧米文化への憧れが強く、スイス留学で自国の現状にコンプレックスを抱いた金正恩は、国民を豊かにしたいという想いが強く、自国発展のためなら核兵器放棄を米国との交渉材料にしてもよいと考えている節がある」とし、米朝首脳会談後の様々なシナリオを予想したうえで、「これまでの北朝鮮の指導者とは異なり、いざ核放棄となれば、あいまいな時間稼ぎなどせず、思い切った方向転換を行うのではないか」と語った。さらに、徹底して秘密主義を貫き、家族は一切公の場に出さなかった父・金正日に対し、「金正恩は国内の視察に妻を同行し、妹を外交の中心に据えるなど、祖父・金日成のやり方を踏襲している」と指摘。米中が北朝鮮を巡って綱引きを続けている現状に、「朝鮮半島は当分の間は、大国の綱引きの場となるのではないか」との見通しを語った。