2023年9月27日「アジア安保会議」講師/兼原 信克 元外交官・同志社大学特別客員教授

2023年09月27日
  

台湾情勢の今後と日本

 2010年頃まで日本と同規模だった中国のGDPはいまや日本の3倍、米国の75%相当までに成長、軍事費は日本の約5倍の25兆円で、米国に及ばないものの世界第2位の存在感を示している。中国海軍の主要艦艇は350隻で、米国の300隻、海上自衛隊の50隻と拮抗。中国の軍事費に科学技術費は計上されておらず、軍事技術関連予算は巨額で、10年後に中国の核弾頭は米国と同等規模の1500発となる見込み。巨大化する中国人民解放軍を抑えるには西側の団結が不可欠だ。

 中国は南シナ海、東シナ海での支配力を強めようと、尖閣諸島周辺では中国海警の公船が常時徘徊、定期的に領海侵入し、米国の同盟国にも実力行使を開始するなど一方的に拡張主義を推し進めている。中国にとって台湾島は日清戦争で日本に奪われた領土であり、台湾の独立宣言など必要があれば実力で回復したい。日米の台湾問題の考え方は冷戦初期に中華人民共和国と中華民国に分裂し、台湾海峡の現状維持が原則で、台湾が中華人民共和国の領土の一部と認めたことはない。1996年に李登輝総統は台湾の民主化を断行したが、米国のコミットメントを留め置くには民主化しかなかったからだ。中国は台湾独自のアイデンティティを恐れ、台湾独立は中国崩壊の引き金になり得ると警戒。経済の躍進した中国は経済的な台湾取り込みを企図し、馬英九総統を篭絡。しかし、ひまわり学生運動で自由台湾のアイデンティティは却って強まることになった。

 軍事力に自信を持つ中国が台湾統一に向けて軍事力を行使する可能性はかつてなく高まっている。それ以前に、台湾島太平洋側の海底ケーブル 遮断、サイバー攻撃によって金融やガスといった重要インフラを麻痺させる、要人暗殺などテロ事件を起こし、傀儡政権の樹立と中国軍の支援要請もあり得る。

 兼原氏は、中国が経済大国になるまでの歩みや習近平が権力を確立するまでの経緯を日本の金権政治にたとえながら解説するとともに、台湾有事のシナリオを様々な角度から分析。習近平の進める経済政策、拡張主義について「共産党がすべてを支配し、思想と力で抑えつける毛沢東時代と同じことを目指すのは無理がある」「習近平が存命の間は日本が戦争(台湾有事)を起こさせないことが大切」として、西側とともに連携することの重要性を強く訴えた。