山本善心の週刊「木曜コラム」  今週のテーマ     2010年の中台経済

2010年02月11日

いま、台湾経済が元気いっぱいで台北市内は活気に溢れている。1月15日台湾経済界の重鎮である陳年男氏に理由を訊ねると、「成長の牽引力である米国向け輸出が増えたからです」と言った。株価も上昇に転じ、個人消費も拡大しつつある。台湾経済の好転は中国の公共事業拡大による恩恵もあるが、決定打は対米輸出であった。

台湾経済は中国、香港向けの輸出入が半分近くを占めているが、対米輸出が好調に動くと雇用と消費が拡大し、好景気になる。さらに中国政府による約58兆円の景気刺激策の効果がじわじわ効いてきた。しかし、これに頼り過ぎると対中輸出はカネ切れが雇用と消費の切れ目となり、頭打ちになるなど、危険な可能性が高い。台湾経済は今後欧米経済の回復を待ち、さらなる上昇を期待している。

これまで、台湾経済は輸出が主流であり、米国の景気動向に大きく左右されてきた。対米輸出が落ち込むと失業率が一気に急増する。たとえば、昨年3月は5.8%前後の失業率を記録した。馬政権の中台関係改善は対米不振の不足を補い、台湾経済にプラスをもたらしたとの見方もあるが、やはり経済は米国次第である。

台湾で増す中国の存在感

筆者らは台北市内東部にある101階建ての世界有数の超高層ビル、「台北101ビル」の近くに出向いたが、中国人観光団が目を引いた。また、台北市北西部にある老舗ホテル圓山大飯店2階にある景観のよいレストランも中国人団体ツアー客で賑わっていた。これらの中国観光団の買い物は相当な金額にのぼるとみられている。ちなみに昨年7月から約1年間で中国の観光客は50万人に増大し、外貨収入は1000億円近く増えたとのことだ。

今後、台湾における中国人観光客はまもなく日本人の数を抜いてトップに立つとみられている。中台の経済関係は観光だけにとどまらず、大型買い付け、大型商談にも波及し、台湾の中小零細企業らは多大な恩恵を蒙りつつある。

2008年末、馬政権は中国と台湾の直接による“通商運航通信”を解禁した。以来、中台の経済交流や人的往来は堰を切ったように急拡大している。これらの中台経済の活発化に伴う台湾経済に与える影響は計り知れない。とはいえ、台湾経済にみる好況の決定権は米国にあり、まだまだ対中国輸出に及ぶものではない。

根拠のないまやかしの繁栄

一方、中国による景気刺激策の中心は、深刻な貧困層の雇用に向けた公共投資である。しかし、中国はリーマン・ショック後、金融危機をまともに受けた国だ。それゆえいつ株や不動産バブルの下落がやってきても不思議ではない。それがいつとは断定できないが、すでにその兆候が現れ始めたと解している。

中国は北京オリンピック時に不動産ブームのピークを迎え、高層ビルが各地で林立した。当時多くの旅行者が上海に足を踏み入れるとまるで未来の都市を思わせるほどの中国の発展に驚いた。しかし実態はビルやマンションの空室が目立ち、投資家が購入して金融商品として転売されるケースが多いのが実情だ。中国経済は着実な経済基礎に築かれたものではなく、借金と投資ブームの中から生まれた虚像に他ならない。

しかも、中国の繁栄は海外からの投資や合併、ODAなど借款のうえに築かれたものであり、一歩間違えれば一気に減速する大きなリスクがある。当面は財政出動で凌いでいるが、それは借金をさらに上塗りすることだ。

中国が米に報復

中国は米国債の最大保有国で、米ドル資産の外貨準備高は世界最大となり、米国債の安定的な引き受け先となっている。しかし最近は解放軍の軍拡による米中対決が鮮明になりつつある。

何かにつけて、中国は米国と互角にわたり合おうとする態度や発言が目立ち、米国に揺さぶりをかけてきた。こうした中国の態度に米国世論が反発し反
中感情が各地で目立つようになった。オバマ政権の弱腰外交に支持率下落がいっそう進みそうな気だ。

しかし、オバマ政権も当初は中国に遠慮がちであり、中国の嫌がる発言は一切控えてきた。ここにきて、オバマ大統領の対中姿勢に変化がみられる。①チベット仏教の最高指導者であるダライ・ラマ14世と今月中にも会談する。②中国当局によるネット検閲に反発して米ネット検索大手のグーグルが中国から撤退。③台湾への武器売却を決定―などである。中国はこれら米国側の態度に猛反発。中国はダライ・ラマとの会談を断行すれば強力な報復措置も辞さない構えだと米側に揺さぶりをかけている。

米国の理念

しかし、筆者からみれば、今後中国の米国に対する居丈高な態度は弱まるだろう。たとえば、中国が大量の米ドル資産を売却すればドルが大暴落して
影響を受けるのは中国だ。中国は既に米国金融政策の罠にはまり、一蓮托生となっている。危害を加えれば即中国に跳ね返る仕組みだ。

いまや中国は自国の膨大な借金と米ドルマジックにコントロールされている。しかし米国に対する弱腰外交は、中国世論がネットなどによって胡錦濤政権を非難するので、表面上強気なポーズと対抗措置をとらざるをえない。

米国は理念の国であり、約束を履行する民主国家だ。自由と民主主義、人権と法治は米国が世界に広めた理念であり正義である。米国は同じ理念と価値観を持つ日本と台湾に交わした同盟、条約は必ず守るという信頼で成り立っていよう。オバマ大統領の政治指導者としての力量に世界が注目する所以である。

習近平時代の足音

中国国内では、米政府の台湾への武器売却決定に、反胡錦濤グループが猛反発している。現在中国解放軍の実験を握っているのは習近平勢力だ。江沢民氏や鄧小平一族の後押しにより、習近平副主席らは既に82%以上の軍の支持と実権を握ったと言われている。いまや習近平と胡錦濤主席の勢力争いは水面下で熾烈をきわめている。

習近平氏は江沢民元主席の直系で、最近は態度もふてぶてしく横柄になってきたとの評判が中国専門筋から漏れ伝わる。習近平勢力は資産家で固められているので資金は潤沢である。そのうえ軍を動かす力の政治が武器だ。今では総合力で習近平氏が一歩リードしているとの見方もある。

習近平氏は昨年暮れの訪日時にこれまで皇室の慣例を破って天皇との会見を強行した。こうした前例をつくると今後同じことが何回も繰り返されることになる。これは民主党内部にひそむ天皇制打倒戦略が根底にあるから実現できたとの恐ろしいお話もある。それ以上に中国側の執拗な要請で、わが国政府はこれまでの慣習を破った。

胡主席の次世代政権

思い起こせば、江沢民元主席は反日に徹底した政治家である。全く根拠のない歴史観をあたかも事実であるかのように公言し反日姿勢を鮮明にした。あれほど日本人を馬鹿呼ばわりした中国の指導者に対してわが国政治家の平身低頭ぶり、強いものに阿る態度を見て日本人の大勢が惨めな屈辱感を味わった。

その江沢民の後継者と目される習近平氏が後継者となり、今後同じような対日強硬姿勢を取るのが心配の種である。筆者は昨年12月15日、都内ホテルで行われた日中友好七団体主催による習近平氏訪日歓迎レセプションに出席した。その折、習氏の演説内容にインパクトは感じられず、江沢民氏のような反日的な言動も見られず、むしろ友好的な色合いが濃かったとの印象を受けた。

しかし、胡錦濤主席もじわじわと権力内に迫る習近平氏の動きを指をくわえて見ているわけではない。2012年は同主席が退任する年であり、第18回党大会が行われる年だ。それまでに「ポスト胡錦濤」第6世代といわれる40代の幹部を抜擢し、胡錦濤直系づくりが急がれている。

白票の中国経済

胡錦濤氏はかつての共産主義青年団に所属していたが、昨年あたりから一気に直系の人材を昇進させている。中でも「政界の次世代エース」と目される胡春華河北省長(46)を内モンゴル自治区のトップ(党委員会書記)に昇進させた。吉林省のトップである孫政才氏(46)は農業相にするなど、若手を地方の要所に配置し始めた。

中国は表向き「世界の経済大国に突き進む」と喧伝されているが、多様な情報環境にある立場の見方として、中国の未来はバラ色の夢も悪夢も紙一重といったところだ。中国国内では圧倒的な貧困層がまともな保障も職もなく、ただ頼りにするのは年8%の経済成長でしかない。しかも8%ラインを割れば地獄行きとなるので、胡錦濤主席の在任中は財政出動でしっかりクリアしていくだろう。

米国の台湾への武器売却に始まり、中国叩きに反発する胡錦濤主席であるが、中国の利益と米中関係の維持には台湾の現状維持が望ましい。あらためて時代が移りゆく中で、中国は時代の転換点にたち、軍事力で他国を威嚇するより、経済の繁栄と安定に傾注するのがよい。中国は今後近隣諸国をはじめ、世界との友好と協力関係を深める信頼という絆が賢明といえまいか。

次回は2月18日(木)に発行いたします。