東アジアの軍事情勢は中国の軍拡による脅威が顕著となり、各国は警戒を強めている。わが国にとっても深刻な事態であるが、そんな緊迫した状況下で鳩山首相は米国抜きの「アジア共同体」を提案したが、周辺諸国から反発を招き、常識を疑われた。鳩山首相は親中派を鮮明にしたが、実力者小沢幹事長は620名以上も引き連れてさらに親中派であった。
中国の国防費は2009年に7兆930億円となり、21年連続で2ケタの伸びを達成した。一方日本の防衛費は7年連続減少の4兆7千億円で、この数年日本と中国の軍事バランスは中国の圧倒的な優位が定着しつつある。
違法侵犯で領海問題に揺さぶりを続ける中国
昭和53年(1978年)、巡視船「やえやま」が魚釣島近辺を哨戒中、五星紅旗(中国国旗)を掲げた300隻の中国漁船が島を占拠した。漁船には人民服を着た解放軍の兵士が機銃を装備して乗り込んでいた。「やえやま」は武装船との一触即発の事態を前に海上保安庁に応援を依頼。その1時間後には米軍機が上空を旋回し、そのまま何処かに消えた。海上保安庁はその2日後、現地に10隻の巡視船と4機の飛行機を現地に派遣し、武装船を領海外に押し戻した。中国解放軍らは尖閣諸島を中国固有の領土であると主張しながら退去した―。
この問題は、米軍と日本政府の出方を見るための中国解放軍による尖閣諸島を巡る予備訓練であった。もしそのまま武装した兵士が尖閣諸島に上陸していたら竹島と同じ運命になっていたかもしれない。尖閣を巡る領海問題は一触即発の危機にあったといえよう。
わが国政府は中国船の日本海域の侵犯に抗議するでもなく、単にトラブルを避ける事なかれ主義でしかない。中国が日本近海でガス田を開発し、駆逐艦や潜水艦等が頻繁に日本海域に出没する本当の狙いとは、日本海での海洋権益の獲得と威嚇だ。中国船の違法侵犯は日本近海を何度も航行することで既成事実をつくりつつある。
したたかな中国の外交戦術
中国はわが国の歴史を悪と断定し、靖国や歴史問題を持ち出しては謝罪と反省を求めてきた。日本側がそれに対して反発せず謝罪と反省を繰り返すことで中国の反日政策は成功した。
反日政策には二つの効果がある。一つは中国国内で起こる年間8万5千件以上の大小様々な暴動に対して、国民の不満の矛先を日本に振り向けることだ。二つ目は、わが国政府の歴代首相に謝罪と反省を繰り返させることで、中国の偏向した歴史観を正当化することにある。わが国天皇陛下にまで謝罪の意を表明させ、その威信を低下させたことに多くの日本国民は不快感をにじませたものだ。これらはいずれも中国に有利な東ガス田、ODA、借款などの交渉カードとなる。
日本はこれまで中国による絶え間ない圧力に屈してきた。しかし次第に中国離れが始まり、中国から日本企業が撤退を始めたり、ODA、借款も中国の意に添えない状況になりつつある。言うべきことをはっきり主張できない日本外交が招いた後遺症は大きい。
中国外交は軍拡を背景に相手国を威嚇し、ぎりぎりまで譲歩させるのが常套手段である。中国は国益のためにあらゆる手段を用いて相手国の弱みを穿ってくるが、相手が反発し強いとみると潔く微笑外交や融和政策に方向転換する。2009年6月、胡錦濤主席が来日した際、これまでの強持てから一変したのは周知のとおりだ。
中国に従順な鳩山内閣が誕生してから、尚更日本の世論に対する姿勢が融和的になり、靖国・歴史では何も言わなくなった。今、中国ではわが国世論の取り込みと民主党を使った日米分断も視野に入っている。今後日米分断を目的とする反米論争があれば、韓国盧武鉉政権と同じ運命をたどり、米国は日本から撤退するとの見方もある。
中国ミサイルはワシントンが照準
現在、中国にとって最大の目的は米国の軍事力に追いつくことだ。今や米中はG2といわれ、世界は米中が利害を共有して共存するものと思われてきたが、決してそうはならないだろう。中国は米国本土に近い海域に原子力潜水艦の増大を計画し、潜水艦から米国本土にミサイルを撃ち込む実験にも成功している。いまや日本近海のみならず、中国は膨大な軍事費を使って米国に対しても挑戦を始めようとしている。
中国は経済成長と軍拡に励み、中国中心の中華帝国を完成させ、「多極化世界」の構築を目指してきた。誇大妄想的とも受け取られるが、着々とその目的に向けて歩みを進めている。台湾攻略に関して中国政府は2012年まで統一するとの計画が元北京大学の教授である袁紅冰氏によって暴露されてしまった。
中国は東アジア共同体構想を練り、米国をアジアから除外することを試みてきた。鳩山首相は中国の意向に沿う忠実な代弁者として忠誠を尽くしたが、周辺諸国からの反発が強く、計画は頓挫する。中国の狙いは米国を東アジアから排除し、世界唯一の大国の座から引き摺り下ろして中国が取って替わることにあった。
暴走する中国に周辺諸国も反発へ
普天間移設問題で、東アジアの平和と安定には日米安保条約が不可欠だとして、東アジア・大洋州周辺諸国から日米関係の悪化、日米同盟の将来を懸念する声がしきりだ。そのすべての原因はこれまで中国が取ってきた他国への横暴な姿勢にある。
しかし、中国の傍若無人な動きに対して近隣諸国が黙って見ているわけではない。オーストラリアのラッド政権は中国の軍事拡大に対抗し、同じく軍備増強を行うと宣言。対中防衛計画に本腰を入れ始めた。まず潜水艦隊の倍増やF35戦闘機の100機購入計画など具体的な領空の軍事力増強を発表した。今後20年間に同国周辺の安全保障のみならず、遠方へ軍を展開する軍の再編にも力を入れると公表している。
米国は日本を見捨てない
米国は日本の安全保障に関してどのように考えているのか。「米国の敵は中国」とは米国の軍事専門家なら誰でもそう思っていよう。オバマ政権の仮想敵国は中国だ。対中戦略上最も重要な軍事拠点は沖縄と普天間基地である。米国は沖縄の基地が確保できなければわが国を守れないと考えている。最近「米国は日本より中国寄りになった」「オバマは日本を見捨てた」との論調は大きな間違いで、「中国は軍事的に米国本土を狙う世界で唯一の敵対国だ」と考えている。
米国と日本は自由と民主主義という価値観を共有するパートナーであった。たとえ日本経済が弱体化しようが、米国は単なる経済的利益のために友好国を見捨てたりはしない。条約を守らないとすれば“自由と民主主義、人権と法治”という米国の理念を放棄したときだ。東アジア最大のパートナーは日本であり、台湾である。日米同盟と安保条約は簡単に崩れる関係ではない。
南シナ海は中国の軍事拠点
中国は東アジア諸国で軍事的プレゼンスを高めている。中国軍は海南島を一大軍事拠点とすべく海軍力の増強と施設の増大を計画中だ。さらに南シナ海の島に領有権を主張し、マレーシア、フィリピン、ベトナム等6カ国と紛争中である。
中国は台湾、尖閣諸島をはじめ他国の領土を自国領海と言い、勝手な法解釈で海洋権益を主張した。南シナ海の小島を自国領とする前提で石油・ガス田に米国企業の参加にも文句を言い、威嚇している。ここに来てオバマ大統領が「しっかりしないから世界が不安定になる」と、内外から厳しい注文が殺到中だ。
米中間の新冷戦時代へ
米オバマ政権の中国に対する見方や考え方に少しずつ変化が見られるようになった。最も大きな理由は鳩山政権が中国寄りとなり、米国離れの動きが顕著となりつつあることだ。普天間基地問題では先が見えない。鳩山政権には中国からも圧力がかかっており、両国の板挟みとなって身動きできないでいる。
今年に入ってオバマ大統領はグーグル問題、台湾向けの武器輸出、チベットのダライ・ラマとの会見、人民元問題など中国が嫌がる政策ばかりを発表した。米中は急転直下「新冷戦時代」に突入し、対立関係に変わりつつある。この米国側の政策転換の背景には、中国の覇権主義的な勢力の拡大が米国の権益を侵し始めた。
中国は相手側が弱いとみると、繰り返し他国の弱点を突いてくる。しかし、米国は世界の警察官であり、リーマンショックがあっても世界の経済大国であることに変わりない。しかも喧嘩好きでいったん火がついたら手のつけられない恐ろしい国ということでは中国の比ではない。しかも両国の軍事的格差が大きすぎる。今のところ中国の居丈高な態度を過大に見るのも良いが中身は空洞との見方もある。
次回は3月4日(木)に発行いたします。