3月12日、台湾で行われた時局心話會「海外研修会」の李登輝元総統の講演の後編をお伝えする。
苦境を打破し、未来を展望ー台湾は如何にして世界の変化に対応すべきか(後編)
台湾元総統 李登輝
(3)中小企業の革新的努力によって、台湾経済は奇跡的な発展を遂げることが出来た
過去における台湾経済発展の重要な要因は、中小企業の貢献が強く寄与しています。中小企業は機会を旨く捉えては国際貿易を利用し、海外からの技術移転によって、国際社会に肯定される台湾の経済奇跡をつくり上げました。
60年代、政府は外国人の台湾への投資に有利な奨励を提供し、その上、高い素質の労働力を供給して、少なからざる先進国家の企業を誘致、または労働集約的な製品を購入しました。これによって、台湾の企業は先進的な生産技術と管理技術を取得し、又、多くの台湾の優秀企業が育ったのです。
これらの技術を習得した者は、後に自ら創業して外資企業の必要とする部品や外国商人の必要とする製品を生産し始めました。多くの中小企業は、一回目の注文を受注すると、国際市場に進出する機会を得、外国商人のOEM工場となりました。
台湾中小企業の供給する、品質の高い、廉価な製品や部品は、又、更に多くの外国商人を引きつけ、台湾に投資、工場設置、そして製品の購入を行ったのです。
(4)後進国に進出して本国での過去の成功経験を生かすことは、悪性価格競争に陥るだけである
台湾は1980年代の後期に至り、成熟期に達した一部の産業が、革新と研究発展を忘れ、又、国内の労働賃金上昇の影響を受けて、生産コストを下げる為に、東南アジアや中国に進出しました。この様な後進地域に進出して、台湾での成功経験を創ろうとした策略は、個別企業にとってリスクの最も少ない方法ではありましたが、学習する方法がなく、模倣的競争の結果、最後は悪性の価格競争に陥り、なんらの利潤を得ることが出来ず、止むなく閉鎖せざるを得ない状態になりました。日本でもいま同じようなことが起こっている。私は台湾の中小企業経営者が、過去の様に精神を打ち込んで、製品の品質を引き上げ、新しい挑戦に相対して、更に発展過程における革新の重要性に注意すべきであると思います。
三)失業問題を解決し、貧富の格差を縮小すること
失業と貧富の差の拡大は、目下、台湾の中産階級以下の人民の大きな苦痛の種となっております
(1)中下層の所得が継続的にマイナス成長にあることは、階級対立を刺激し、同時に民主制度に衝撃を与えるものである
過去7年間、台湾の平均GDPは4%を超えて成長して来ましたが、未だ大多数の家庭の所有になっていません。最低所得の20%の家庭で、その支配できる収入は、平均マイナス0.47%という状態で成長し、次の低所得20%の家庭の収入は、年平均マイナス0.16%程度で共に殆ど増加しておりません。
台湾の多くの家庭は、将来における雇用機会と所得収入の成長に強い不安を抱いています。新しい雇用機会が増加せず、又、現在の雇用機会が大量に流出しているのをみて、自己の前途に深い憂いを持ち始めているのです。所得収入が期待できない状況は、少なからざる家庭の経済地位の持続的悪化を来たし、充分に経済発展の成果を享受出来ないことで、大多数の人民はグローバル化に対して、かなりの疑問を抱いています。
政府が若し即刻、この様な家庭経済地位の持続的悪化を解決出来ないならば、他国の経験をみても分かる様に、これら中下層の人民は、階級的対立や現有政治体制の転覆に奮闘することになるでしょう。これらの人民は、民主制度が彼等に公平正義、或は機会均等を与えられないならば、民主制度に対してさえ、自信喪失という結果を生み出すかも知れません。
(2)両岸の経済貿易に対し、有効な管理が出来ない上での大量資金の海外投資は、国内投資に強く影響を及ぼす
失業と実質所得の停滞が継続的に悪化した原因は、多くの台湾企業が、過度にコスト引き下げに気をとられ、産業の海外移転策略を強調して、革新の重要性を忘れた事にも拠りますが、過去8年間、民進党政府が、両岸の経済貿易の管理を怠った責任は問われるべきことであります。
その結果、台湾企業が行った中国投資は台湾のGDPにおける比率が1999年の0.5%から、2007年には一挙に上昇して2.6%に達しています。新政府成立後もまた、積極的に問題を解決せず、企業精神を放任し、2009年第3四半期株式市場に上場している会社の中国への移転金額は、522億元に達し、上半期の移転金額を超える状態にあります。資金の持続的外への移行の結果、国内投資の投資率はほとんど上がらず、雇用機会の海外移出が多く、新しい雇用機会も国内投資の減少で伸び悩み、先進諸国への投資も不足の為、所得収入は自然増加出来ず、将来の家庭所得の差は拡大するばかりです。
(3)家庭の所得収入の増加を促進することが、財政政策の主要な任務である
目下、台湾の経済問題は、経済が成長しないことではなく、近年来、家庭の所得収入が減退状態にあることがその理由となっています。新政府は、如何にしてGDP成長を多くの家庭の所得収入の増加に転化するかを財政政策の緊急目標とすべきです。家庭所得収入の成長が経済成長と同一歩調で進まないことは、世界的な普遍現象ではありますが、台湾と中国の経貿関係が過度に密接になった為に、この様な減少が特に深刻化しているのです。
四)台湾の産業構造を調整すべきである
グローバル経済の迅速な発展に伴い、世界の気候も顕著な変化を示して来ています。最大の要因は人為的な温室効果による気体の過度排出です。国際エネルギー機関IEAの統計によれば、1990年から2003年の間に、世界各国から排出された二酸化炭素の増加量は台湾が第八位にランクインしています。但し、二酸化炭素排出の年増加率では、台湾は世界のトップに挙げられています。2005年の別の統計によれば、台湾のエネルギー高消費産業(例えば鋼鉄、石油化学、製紙及びセメント工業)が三分の一以上のエネルギーを使用していて、GDPの産出量は三分の一にも満たない状態にあります。これは明らかに、台湾の産業構造を調整しなければ、世界の気候の変化に対応できない事情を招くことになります。
(1)新しい雇用機会を創出し、一途に雇用機会の増加を追求する政策に変えるべきである
ドイツ政府は2007年、既に全世界の気候の変化に対応する第三次工業革命を定め、産業構造の調整を通して、エネルギー消耗の減少に努め、再生エネルギーの発展を進めて、二酸化炭素の排出量を減少する政策を採用しております。ドイツは更に経済発展の目標を成長率の追求から雇用機会の創出に改めました。
(2)気候変化に応じたエネルギー産業の発展によって、永続的経済発展に邁進すべきである
台湾は、正に先進国家の系列に入る時期にあるため、エネルギー産業を確立すべき挑戦を避けては通れません。新政府はこの機会を借りて産業構造の調整を行い、エネルギーの消耗を減らし、再生及びエネルギー代替品を開発して、より多くの雇用機会をつくり、エネルギーの海外依存を減らすべきであると思います。先進国家の成功実例を引用して、生産面からエネルギーの消耗を減らし、二酸化炭素排出を避ける事は、台湾をして「永続的発展」を重視する国家に成長させるに違いありません。
五)結び
台湾の未来がこれによって継続的に発展するか否かは、ひとえに革新の本質を捉え、継続的に引き上げることにかかっています。私はここに皆様を奨励し、絶えず革新を以って各種の未知の挑戦に望み、経済変化の際先を行くことが出来る事によって不測の経済危機に対応出来るものと思います。
その後の質疑応答では、活発な議論が行われ、会場は大いに沸いた。今後の日台関係について李氏は、「日台の連携を深め、技術協力などを通じて両国を発展させるべく李登輝友の会などを通じて努力していきたい」と述べた。また、日本文化については、「日本は戦後教育の関係で心理的鎖国に入っており、その鎖国から開放されて飛び出さなくてはならない」「オバマ米大統領が天皇陛下に謁見して90度頭を下げて最敬礼したのは日本文化への敬意の表れ」とし、日本文化は世界に名だたる偉大な文化であると強調した。さらに尊敬する人物として坂本竜馬の例を挙げ、明治維新にも言及。「ひとりの人間の力を基礎にして近代国家として日本が大きく変わり、それがあったから台湾があった」と語った。加えて日本の植民地時代について、八田与一や後藤新平が、農地改革やダム建設、都市のインフラ等を指導し台湾を近代国家に導くための基礎を築いた例を挙げた。
最後に、日本人気質について、「あまりに謙遜しすぎ。言うべきことは言うことが必要」と訴えた。そして、「日本の国が自主性を取り戻すためにはどうすればいいか」という参加者からの問いに、日本の自虐史観に基づく歴史教育を批判し、若者が正しい歴史認識を持つことが先決だと、その重要性を訴えた。
この続き(後編)は次週4月15日(木)