3月25日「アジア安保会議」講師/兼原 信克 同志社大学特別客員教授・笹川平和財団常務理事

2024年04月05日
  

「激動の国際情勢と日本外交」

 米大統領選に向けた共和党の候補者選びでトランプ氏が独走中だが、中道派の支持獲得は難しいとされている。対する民主党は、バイデン大統領が中道派から強い支持を集めるが年齢が不安視され、ハリス副大統領と再選を目指すもハリス氏の不人気が指摘されている。トランプ氏は裁判の行方が注目されるが、大統領選は接戦となり、現時点ではトランプ氏優勢とみられる。

 ロシア・ウクライナ戦争は西側諸国から支援疲れがささやかれ、トランプ政権になれば米軍介入を示唆し、停戦につながる可能性もある。核兵器論争で盛り上がる韓国で在韓米軍撤退の恐れもあり、そうなれば米韓関係は危機に陥り、地域の安全保障の影響は日本にも及ぶ。

 2010年頃の中国のGDPは日本と同規模だったが、急激な国力の膨張により、いまや日本の4倍、米国の75%に匹敵するまでとなり、米中大国間競争時代に突入した。中国の軍事費はいまや日本の約5倍で世界第2位。中国海軍の主要艦艇は米国と日本の海上自衛隊の総力と拮抗するまでになったが、米海軍が世界中に兵力を分散しているため、域内戦闘ともなれば中国に分がある。中国は南シナ海、東シナ海で一方的に拡張主義を推し進め、香港でも政治的弾圧を強め「一国二制度」は事実上崩壊した。台湾もこれに対して危機感を募らせている。台湾、日米とも台湾海峡の現状維持が原則だが、台湾島太平洋側の海底ケーブル遮断を手始めにサイバー攻撃による重要インフラの機能停止から傀儡政権の樹立、中国軍への支援要請もあり得る。そうなれば欧州航路に影響が及び、エネルギー、食糧は高騰。円、元、台湾元は大暴落する。

 習近平は3期目に突入し、一極集中型独裁を強化するが、中国経済は低迷を続けるだろう。しかし、いまの中国には十分な力があり、その気になれば台湾有事の可能性は十分ある。習近平が生涯国家主席にとどまるとしても中国経済は米国経済を抜くことなくいずれピークアウトする。それまでの20年間、西側諸国が団結して中国の暴走を阻止することが不可欠だ。

 兼原氏は習近平の半生、台湾問題の捉え方、台湾有事のシナリオなどについて様々な観点から解説した。その後の質疑応答でも活発なやり取りが行われた。