山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     国防を議論する資格があるか

2011年03月17日

われわれ日本人はわが国の防衛に関して、どれほどの関心と情報を持っているか。ほとんどの国民が無関心で議論すら回避する始末である。わが国を取り巻く平和と安全の問題は年々厳しさを増しているが、危機感すら持ち合わせていない。気がかりなのは、お隣の中国は日本を何度も焦土にできるほどの核と大量のミサイルを保有し、その矛先は日本と台湾に向けられている。

一方、北朝鮮もノドン・ミサイルや核兵器を保有し、その標的は日本である。わが国民はこの中国や北朝鮮の核やミサイルが日本全土に向けられている事実に背を向け、自衛策の議論すら避けてきた。中国が軍拡を続けて来られたのは、事なかれ主義で畏縮する日本人が何も考えず多額の援助を続けたからだ。

のみならず、わが国民が白昼堂々と外国人に連れ去られるという拉致悲劇に対して、国は何らの対策を講じることなく放置してきた。日中関係は今後アジアの牽引役として対等な関係であり、共存共栄、平和と安全の要に他ならない。

政官民に防衛意識が欠如

このような状況下でわが国が中国や北朝鮮にもの言わぬのは、事なかれ主義に徹しているからだ。ましてや政治家が憲法と核を語ることがタブーならば国防を議論する資格がなきに等しい。隣国が年々軍事力を拡大しているのにわが国の防衛予算は年々縮小しているが、「子供手当」よりも少ない予算で防衛能力低下は避けられないだろう。

わが国政治が防衛を議論する意識がないので、外交はすべてが先送り事なかれ主義になる。何も語らず何もせずの外交では他国をますます増長させるだけだ。尖閣諸島での中国船による衝突事件でも映像すら封印しようとする外務省の事なかれ主義は目に余る中国への隷属外交であると国民は見ていよう。

田中角栄氏の大罪

1972年、古き良き友好国家である台湾を切り捨て、中国との国交回復を断行した田中角栄元総理の罪は重い。「日中友好」をスローガンに掲げたが、実際中国の対日政策は国富の収奪のみならず、歴史認識や靖国参拝で「反日」「侮日」政策を断行した。つまり、日中国交回復は中国側のペースで結ばれた不平等条約であった。

日本を取り巻く近隣諸国の中で、台湾は最も親日的であり、日本と外交的、軍事的、さらには経済的にも運命共同体である。台湾海峡は安全保障のみならず、シーレーン(貿易通商路)であり、戦略的要衝の地だ。しかも台湾海峡は沖縄防衛の最前線として、台湾が落ちれば地形的に石垣島、宮古島、それに尖閣諸島は中国領になる。中国が台湾を併合すれば、次は沖縄侵略が目標だ。中国では既に沖縄周辺の海底調査を行い、日米海軍との激突場面を想定した訓練を始めている。

わが国はいかなることがあっても台湾の安全保障問題から目を離してはならない。これまでわが国がとった李登輝元総統へのビザ発給中止など非礼な外交態度は歴史に残る世界の笑いものだ。わが国国民の大多数は台湾が大好きであり、台湾民族の独立に全ての政治生命を捧げた李氏を心から尊敬している。李氏の教養の高さや人格、台湾民主化を成し遂げたのは卓越した指導力が背景にあったのは言うまでもない。

日米安保体制の強化を

中国人民解放軍の軍拡がどこまで続くのか疑問であるが、遅かれ早かれ経済的な破綻や環境問題に行き詰まるのは目に見えている。わが国の安全保障上、台湾は必要不可欠な軍事拠点であり、これを守るには日米が協調して台湾の安全に寄与すべきだ。しかし、その前に中国の軍国主義化に反対する世界の世論づくりが必要だ。

日米は長い年月をかけて兵器を開発し、操縦士の能力を高め、整備のノウハウを蓄積してきた。しかも米軍はイラク、アフガニスタン戦争体験のノウハウを身に付けている。軍事大国としての条件は兵器の量ばかりではなく操縦能力と戦争経験が肝要だ。

わが国はこれらのすべてに欠けているが、最も問題になるのは、憲法の改正と核保有の二つにある。これらの問題を議論もしないで政治が安全保障問題を語る資格があるのか。これはわが国の安全保障問題が前に進まない所以である。

急がれる憲法改正論議

1947年に現憲法が施行されて60余年、日本国憲法は一度も改正されていない。憲法を特徴づける最も重要な条文は憲法9条だ。「日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない」

この条文を素直に読む限り、自衛隊は憲法違反であり、わが国は他国からの侵略に対して武力行使はできないことになる。たとえば、自民党は集団的自衛権を見直すとされているが、基本的に憲法9条に踏み込むことが日本国を防衛する最大の近道である。

衆議院議員の佐藤正久氏(元イラク先遣隊・ヒゲの隊長)は自衛隊のイラク派遣で「武器使用は正当防衛・緊急避難の場合に限られるという大前提がありました」と語っている。佐藤氏によれば、「日米豪韓によるリスクの共有、価値観の共有」に自衛隊が踏み込むべきだと強調した。しかし、民主党の枝野幸男幹事長は雑誌で憲法9条の改正について「きちんと歯止めをかけられるようであればいまの解釈でいい」と述べている。

核は抑止力になる

わが国にはこの憲法9条に加えて「非核三原則」があるが、日本の安全保障体制を揺るがすものだ。これまで左翼勢力が中心となって「核アレルギー」「核廃絶」をまことしやかに煽ってきたが、核を保有せず、持ち込ませずとは他国による核の恫喝を受けた際にも、日本国民は黙って目をつぶり“核の火の粉を浴びよ”と言うものに他ならない。

これまで、中国はあらゆる機会をとらえて核恫喝を行ってきた。2005年7月香港で外国人記者を前にしての中国の朱成虎将軍の核発言は世界を震撼させた。「もし台湾との軍事紛争に米国が介入したなら、容赦なく中国は米国の大都市に核攻撃を断行する」というものだ。これは中国流の恫喝とされるが、いざ核戦争になれば沖縄や東京が最大の標的になることは確かだ。

わが国の平和と安全を持続するうえで憲法の改正と核保有の論議は緊急課題である。世界の主要国が核を持つのは常識である。仮にわが国が核を持てば、それだけで中国への核抑止力となる。これまでのような改憲反対、非核三原則では中国や北朝鮮からの攻撃に国家国民を守れないと国民の大勢は考えている。政治家、マスコミ、政治学者、ジャーナリスト、一般市民らが、一切の先入観を排した論議を展開すべきときが来たようだ。

グアムはわが国国防の救世主

さらにわが国にとって最も重要な軍事拠点は日本列島の背後に位置するグアム島の存在であり、米軍基地として、日米同盟の深化、強化策も不可欠だ。グアムは日本と台湾を中心とする安全保障上欠かせぬ重点戦略拠点でもある。いざ非常事態になると地上軍、海軍、空軍の兵器が結集し、短時間のうちに非常事態に対処できるのだ。

3月4日、筆者はグアムで行われた経済誌主催の研修会に講師として招かれた。グアム島はいまやリゾート地としても開発が進み、素晴らしい環境に変わりつつある。グアム軍事基地はわが国の安全保障上必要不可欠だ。米軍は、24時間以内アジアの危機に迅速に対応できる世界規模の軍事行動が集結する。

現政権は国防に対する議論もない

最近民主党政権になって、保守系から聞かれるのは米国による対日経済圧力の話がある。米国は日本から富を収奪し、日本はなされるままというわけだ。しかし、よくよく考えてみれば、わが国は憲法9条、非核三原則があり、自国を守ることすらできずして文句が言えるのか。

いくら自衛隊が強力でも専守防衛では気休めであって実戦には役立たずだ。ましてや現政権の執行部は安保反対の立場で闘った人たちが中心となっている。海上自衛隊の艦艇がインド洋で展開する多国籍艦隊への燃料補給活動は中国が握っている。

わが国シーレーン(海上輸送路)を通る海外エネルギーはインド洋を通らずに日本には来ないのだ。わが国に代わっていまやインド洋は中国の活躍が目覚ましい。わが国は国防に対して議論する資格もないのではないか。

次回は3月24日(木)です。