山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     世界経済の中心はアジア圏に   (震災をわが国製造業のアジア圏での飛躍の糧とせよ)

2011年04月07日

わが国を取り巻く国際情勢は今後厳しい局面を
迎えていくことは確実だ。その一つとして東日本大震災による被災地経済の凍結状況がある。これら大震災の復旧・復興対策に向けた政府の財政捻出が緊急課題となろう。復興には当面10兆円規模の税源が必要との試算もある。早くも野党は民主党の子ども手当や高速道路無料化などバラマキ予算を撤回し復興財源に回すよう要請している。さらに赤字国債の発行や復興増税などの国民負担議案が浮上してこよう。

東日本はトヨタ自動車をはじめ自動車業界の重要な部品工場が集中しているが、東日本地区の部品メーカーは潰滅的な被害を受けた。これはものづくりの根幹を揺るがす非常事態であり、今後の影響は計り知れない。まずは、東北地方の復旧工事と共に、企業の工場再建や原材料買い付けのための資金調達が急がれよう。日本経済新聞によれば、震災が起きた3月11日以降、三井住友銀行が約1兆円、みずほコーポレート銀行が約9000億円、三菱東京UFJ銀行が約7000億円など三行合わせて融資要請額は2兆6000億に達する。銀行側はいずれも要請額を認める方向で検討を進めているという。

これまで東北地方の製造業はグローバル化に適応するため、生産拠点の集中化と効率化で国際競争力を身につけてきた。しかし今回の地震と津波で元の木阿弥だ。今後は競争力を取り戻せるか否か製造業の大きな試練が待ち受けていよう。多くの企業が震災の影響で国内同業他社や中国、アジア地域に仕事を奪われるのではないかとの心配もある。東日本地区は過去、幾度かの震災、津波による難局を乗り越えてきた。その経験を生かし、震災前の状況に戻し、被災地域の復興に向けた新たな製造業モデルへの転換に期待したい。

激変する世界の経済状況

世界経済は今後良くなるどころか年々厳しくなるとの見方がある。たとえば米国のサブプライムローン問題以降、米国の借金は2倍に増えていると聞く。欧州の経済・貿易規模も縮小を余儀なくされ、その動きは世界に波及しつつある。さらに中国ではインフレ懸念が強まっている。中国の消費者物価は2月(3月11日中国国家統計局発表)で4.9%上昇した。中国のインフレがこれ以上加速すれば貧困層の生活を直撃し、国内不満が爆発しかねない。

これらのインフレ要因は原油価格の高騰と一部工業製品の値上げが影響している。それに加えて中国の人件費と人民元が上昇すれば、製品コストに跳ね返り、外国企業は中国から撤退するため中国国内の雇用問題が深刻になる。2000年以降、沿海部の外資系企業では労働者の人手不足が問題であったが、内陸農村では余剰労働力があふれていた。これらの現象に関して中国の内陸部で物づくりの工場進出している台湾の王氏が、「沿海部は20歳前後の若い労働者ですが、内陸の余剰労働力は40歳以上ばかりです」と言っていた。

これまで中国は「世界の工場」として製造業の覇権国家を目指してきた。中国は米国、台湾を中心に世界の資本と技術を導入する一方、安い人件費を最大の武器としてきたが、その人件費上昇に加え2005年以降の人民元高が影響して製造業全体の競争力が低下した。中国はコストが安いことが最大の強みであったが、アジア諸国の人件費に対抗できず多くの外資が撤退し、中国自らも東アジアに物づくりの拠点を移す有様だ。

世界の工場は中国から「アジアベルトライン」

では、今後中国に代わるアジアの製造拠点はどこか。ベトナム、ラオス、タイ、ミャンマー、バングラデシュ、インド東部に至る「アジアベルトライン」だ。これら新製造業地域は人件費が中国の半分以下で人口規模も大きく、しかも親日的な国々が多い。

これらの国は自動車部品、電子部品、家具、玩具、靴、バッグ、縫製などの手作業を主とする受け皿になろう。今後の課題であるインフラ整備が問われるが、道路、港、土地整備などが順調に進んでいる。ODAによるインフラ整備も今後はインド、アジア諸国が主流になろう。交通面での物流も含めて問題点はスピーディに解消されていこう。今後わが国がアジア圏の中でいかなる価値観を提供できるかに生き残りの道がある。日本のモノが売れるには相手国の顧客ニーズをいかに的確にとらえるかにかかっていよう。

すでに、わが国製造業は大手を中心に国内外に分散して想定外の有事に備えてきた。たとえば、名古屋の中小企業八幡ねじ(鈴木建吾社長)は日本、台湾、中国等に工場を持ち、経営資源の分散化を図っている。また、衣料メーカーのユニクロもかつては生産拠点を中国に集中させていたが、いまではベトナム、ミャンマー、カンボジア、バングラデシュ、インドなどに分散させている。すでに世界の繊維製品の供給は中国からアジア諸国に移りつつある。アジア諸国は低コスト、高性能、高品質な製品をつくる世界最大の衣料製造拠点になり始めている。

中国は輸出黒字から内需拡大

中国製造業の売り物である安い労働力と、人件費の上昇で外資は撤退を余儀なくされている。しかも中国企業の大勢はいまだに低価格商品から高付加価値商品に転換できていない。今からほんの数年前まで、「世界の工場」は中国一色であったが、まるで嘘のように、経済の移り変わりが目まぐるしい。

その一方で、中国は「世界の工場」時代に外貨保有高でトップを走り、新たに富裕層の登場を大量に生み出している。社会経済構造が大きく転換する中、中国人一人当たりのGDPは1998年に821ドルから2003年に1274ドルに増加、2008年には3268ドルに急増した。個人に占めるGDPの上昇は製造業の中心から国内需要の拡大で中国は消費経済への転換が顕著だ。

中国一千万人の富裕層を狙え

中国には飢餓線上にある年収1万6千円以下の最低貧困層が3957万人いる半面、年収800万以上の中間富裕層が推定1000万人前後もいると聞くが、その大半は企業経営者だ。中国の消費構造は富裕層、中流層、最低生活者層に分かれる格差社会だ。中国政府は輸出主導、投資主導から内需拡大消費主導に成長路線のメカニズムを転換する方針を掲げている。

外資の撤退によって「世界の工場」をアジア諸国に譲り渡しつつある中国だが、外資が去ったあとも沿海部には多くの富裕層が残っている。彼らの需要は旺盛であり、今後彼らの消費拡大によって非製造業、サービス産業が続々誕生することが予想される。台湾の王氏は「いよいよ日本は中小企業の出番がやってきました」と言う。

中国で成功するには中国人社会に溶け込むことだ

そう言えば、筆者の身近な友人たちも中国で飲食店を経営している。中国の東北地方で日本式の居酒屋をオープンした友人の店は連日大盛況だという。とくに旧満州の東北三省(遼寧省、吉林省、黒竜江省)は親日的な地域であり、日本のきめ細かいサービスが現地の中国人客にも大好評のようだ。

日本製品には信用があり、日本の食材は高くても富裕層の人気が集中し、「うまければ客が集まる」と言う。中国で成功するには内需を「取り込め」から「溶け込む」という発想で中国人になりきることが肝要だ。

わが国ではこれまで中国経済が世界経済を席巻するかのような報道が繰り返され、政治は東アジアでは中国一辺倒で、経済でも経営資源を中国に集中させてきた。ところが中国一極集中にもかげりが見えてきた。

大震災に学び、自らを変えるきっかけとせよ

これまで本稿では東日本の大震災で壊滅的な被害を受けた製造業の転換と、中国の「世界の工場」から内需拡大への変身ぶりを述べてきた。東日本大震災は日本経済と企業が新時代に対応できるきっかけになるべきである。日本経済を取り巻く環境は中国中心から「アジア中心」に向けて大変革の節目を迎えたことを重ねて強調したい。

わが国経済にとってアジアは最大の市場であり、日本はアジア経済圏の中にいる。日本企業は「アジアの力」と共存する価値観を構築すべきである。経営者はアジア全域の動向に学び、経営資源の効率的な配分を考えざるを得ない。

わが国はいまや世界と共に転換点にあると述べてきた。人間は常に変わらなければ次なる時代を継承できない。時代の変化に適応するには、国内の動きから世界の動きに敏感であるべきだ。弊会では台湾との交流を深めることで企業がアジアに目を向けるきっかけをつくりたい。既に大企業は世界にビジネス拠点を構築しているが、中小企業にはほとんどが失敗事例が多い。商売の結果はやり方次第であるが、今後は「よく学び、よく働け」の時代がやって来たようだ。

次回は4月14日(木)です。