時局心話會 代表 山本 善心 VS 黄 石城
10月20日於恵比寿ウェスティンホテル
台湾の黄石城氏は地方首長(彰化県知事)を8年、中央政府(国会議員)を10数年務めたが、その間一貫して無党派、無所属議員を通し、公正、中立の立場を堅持した。台湾政治家として「倫理・道徳」を重視する政治使命を貫徹した人物はきわめて珍しい存在だ。いまは第一線から退いて後進の指導にあたると共に、台湾政治・社会の浄化に奔走されている。
今回は黄氏との対談を通じ、政治と社会に対して「倫理・道徳」がいかなる影響をもたらすのか。氏が提唱する6つの政治理念「無私、知恵、道徳、誠実、能力、典範」をテーマに指導者の心得とする問題の本質に迫っていきたい。
<無私> 理想を持ち、先人に感謝し、子孫のために働く
山本:政治家は有権者から選ばれた国民の代理人ですから、国民のために「無私」で働き結果を出すべき立場にあるはずです。しかしながら、いまやイデオロギーだとか、目先の「個利個略」「党利党略」で動くのが常識となっています。黄先生の政治活動は、すべての原点が「無私」に始まり、「無私」に終わると聞いていますが。
黄:私には私心はなく、人民と国家のために働くのが仕事だと考えてきました。私心がなければ、政治家に理想が生まれ、先人に感謝し、子孫のために働く心が生まれます。けれども、今の台湾政界に見る政治家の私心は、利害や権力を利用して傲慢に振る舞う人が多くあります。これでは選挙民が政治家を信用することはありません。日本の場合は政党がマニフェストを高く掲げて選挙しましたが、政策を実行できません。嘘をついて政権の座を取るのは、有権者に対する詐欺行為と同じです。
山本:日本の政権与党である民主党は前回の選挙で300議席以上を獲得しましたが、党内紛争と公約不履行で次回はかなりの議席を落とすとの予測もでています。まさしく黄先生が言われた通り、政党政治家の質の低さと政権を担うにふさわしくない「倫理・道徳」の欠如に有権者が厳しい審判を下すとの見方が大勢です。
<知恵> 私心のない知恵は利害関係を超越した結果につながる
黄:私はその意見を理解できます。政治家は「知恵」が必要ですが、「知恵」とは何か、その意義を理解していない政治家がたくさんあります。政治の目的と政策に私心が禁物であることを理解していません。私心を持てば知恵には結びつかないことがあります。ただ賢くて頭がよい人だけでは物事がうまくいかないのは、そこに私心があるからです。「知恵」と「無私」とは一心同体で、私心を持たずに政策を行えば、スムーズに多くの問題を解決できます。しかし、はじめから私欲を目的として知恵を使うので抵抗勢力という大きな壁が立ちはだかります。政治目的に私心のない知恵を働かせば俗事の利害関係を超越した結果が生まれる事例がたくさんあります。
<道徳> 政治家は道徳を修養し、内外に手本を示すべし
山本:ここに、一つの事例として米国の市場原理主義が日本全土を直撃したことです。これはわが国の社会、文化、伝統に至るまでわが民族の価値観を否定し世界化を強調しました。彼らの市場原理主義とはマネーゲームの勝者のみが喝采を受けます。小泉内閣のグローバル化、市場原理主義はわが民族が営々と築いてきたルール、規制、商習慣を破壊して、国民を中流社会から格差社会に引き摺り降ろしたとの意見もあります。
ライブドアの堀江氏らが起こしたニッポン放送の株式買取劇は、スーパースターが登場したかのように国民は拍手喝采を受けました。しかしニッポン放送もTBSも長い歴史と知恵の蓄積によってコツコツと積み上げられた、社会性のある企業です。IT寵児の言う通りになるなら、日本の企業社会が根本的に崩壊するしかありません。彼らの生き方には日本人が古来から美徳とする「倫理・道徳」を尊重する姿勢が微塵も見られないからです。しかし彼らに象徴されるように、日本国内は国民や企業が少数の勝者と大多数の敗者に二極分化されました。これまでの一億総中流社会から、世界で五番目にランクされる格差拡大社会になったのです。当時、マネーゲームに取り憑かれた日本人らはグローバル化時代の幕開けを良しとする風潮が見られたのも確かなんですが、今では中流の小金持ちが消えて、貧困な若者ばかりで社会は惨憺たる状況を呈しています。
黄:それは台湾でも同じです。いま、台湾は中国経済に深入りし、少しずつ中国化しています。しかし尖閣問題では中国との連携を避け、香港の活動家らの台湾への寄港を断るなど対日関係を悪くしないようにしています。台湾は少なくとも日本と直接対話して打開への道を模索しようとしています。
山本:台湾にはたくさんの中国人観光客が来ています。経済的には潤っても、中国人のマナーの悪さとルール無視の非常識な態度に台湾人が呆れ返っていると聞いています。
黄:その問題を解決するには、台湾が中国に対して民主主義国家としてお手本を示すことにあります。ガンジーの第一戒に「道徳の政治をせよ」とあり、孔子も「徳をもって政とする」と言っています。モンテスキューは自著の中で「民主主義政治は道徳をもって根本精神とする。道徳のない民主主義政治は愚民の政治になる」と強調しています。今後、台湾の政治は「倫理・道徳」が国家と人民の将来を決めることになります。政治家は道徳の修業を行い自らを戒める心得がなければ、中国に対抗することはできません。
<誠実> 人民の代表として国のための政策を行う
山本:かつての自民党政権から民主党政権に代わる選挙で日本国民の有権者は民主党に期待しました。しかしながら、選挙前に約束した重要な公約(マニフェスト)はほとんど実現されず、経済がどんどん悪化する結果を招いています。民主党には「私利私欲」「党利党略」ばかりで国家観がなく、この政権は何をしたのか、との声が噴出しています。民主党政権の矛盾は限界に達しています。しかしですね、民主党議員の大勢はそう思っていないんです。
黄:それは問題です。国民から選ばれた、政権政党が人民の代理人として何をしたのか総括することは大事なことです。しかし、日本国を破壊するような政策や行動があれば政党としての体を成していません。政治の目的を忘れた政権の行く方は、人心が政権から遠く離れていくことになります。日本の政治は発想の転換をはかる時代が来たと思います。つまり、金権主義から道徳重視の時代です。
山本:民主党政権のイデオロギー政治、左翼活動、「個利個略」「党利党略」ばらまき政治の現状に国民は飽き飽きしています。道徳心はおろか、責任感の乏しさには目を覆うばかりです。そんな政治家を選んだ我が国民こそが、本当の馬鹿ではないか。我々には反省と共にその責任があります。今や日本の政治は負の連鎖の真っただ中にあると思っています。
黄:私が政治家に「倫理・道徳」が大切であると何度も述べているのはそのためです。政治家は権力を持つと平気で嘘を言い、欺瞞と騙しの政治を行います。政治家は誠意と真実がなければ自滅します。
<能力> 大局観を持ち、実行に移すべし
山本:たとえば、小泉純一郎元首相は、その表現力やパフォーマンス、政治発言において、名優ばりの演技力で日本国民を圧倒しました。小泉氏はグローバル化を訴え、市場原理主義を正当化して規制を撤廃し、弱肉強食のビジネスモデルを構築しました。当時の小泉氏の人気は絶大で、国民も小泉流市場原理主義に洗脳され、日本の改革にはこれしかないとの思いもありました。
黄:山本先生は当時から小泉元首相に批判的な意見を持っていましたね。なぜ一国の首相が郵政の民営化ばかりに固執するのか私も疑問でした。政治には健全な大局観が必要であり、それを統合、執行するにふさわしい正義があるかが大切です。政治家が立派な意見やスローガン、マニフェストを掲げてもそこに私心があれば、国民を不幸にします。政治家は国民に甘言を弄するよりも理念や政策を誠実に実践する大局観が大切ではありませんか。
<典範> 政治家の言葉や行動、態度は人民の模範たれ
山本:典範とは国民のお手本になる正しい事柄を公正に残すことと理解しています。その点、李登輝元総統は日本人の模範であり教師でもあったわけです。
黄:政治家の言葉や行動、態度は人民の模範であるべきと考えます。そのためには、政治家個人が“無私、知恵・道徳・誠信・能力・典範”などの諸要件を身につけることが大切になります。国家の利益は党の利益より高くて大きい。人民の利益が党派の利益より高くそびえ立つべきである、というのが私の信念です。
山本:日本では政治家の「離合集散」が繰り返されています。比例で当選したみんなの党の3名の議員が次の選挙で日本維新の会に入党します。これは3名の品格の問題ですが、みんなの党と維新の会はそれでも連携しようとしています。彼らには黄先生の言われる「倫理と道徳」のかけらもなく選挙を前にした利害打算しかないとの意見もあります。これが政治の現実であり、実態です。
黄:台湾の政治家も同じで、不利と思えば他の政党に入党します。台湾では節操のない無責任、無人格、非道徳的な政治家がゴロゴロしています。これが台湾では普通です。それゆえ誰かが政治の「倫理と道徳」を伝え、後世に典範を残す使命があります。
山本:米国も中国も国力が弱まりつつあります。これは力の外交と政治力で世界を制覇しようと試みた結果です。政治も経済も「倫理と道徳」という基盤がないと継続が難しいのは古今東西変わらぬ原理原則です。日本の政治も経済も「倫理・道徳」が欠如する中国・韓国から成長するアジア諸国に移りつつあります。中韓への近代化と技術提供、借款など日本が両国に果たす役割は終わりました。これ以上反日国家との交流はまっぴら御免というのが日本人の本音です。
黄:親日台湾は見捨てないでください(笑)
(続く)
次回は11月29日(木)