6月12日「政民東京會議」講師/山上 信吾 前駐オーストラリア特命全権大使

2024年06月12日
  

「外交最前線の現状と日本外交の課題」

豪州がわが国で過小評価されているのは、日本人が英米中心主義であることに加え、メディアや学校教育の責任も大きい。豪州に支局を構える大手新聞社は一社のみ、豪州人が宣伝下手ということもある。しかし、実際には多くの豪州人がスポーツや映画界など世界中で活躍している。彼らの行動力、発信力を日本人は参考にすべきであろう。

豪州は過ごしやすい気候、裏表のない民族性、食事と3拍子揃っており、わが国のエネルギー、食糧安全保障にとって不可欠な国だ。同国の石炭、鉄鉱石、ガス、砂糖、牛肉が途絶えれば日本経済はたちまち困窮する。国防安全保障面でも、南シナ海、東シナ海では米国以上に日豪は共同行動できるはずだが、多くの日本人にとって豪州の存在感は薄い。わが国の国益のためにも豪州の重要性を意識する必要がある。

第一次安倍政権期に豪州は中国を刺激したくないとQUAD(日米豪印戦略対話)参加に後ろ向きで、2016年に「アジアにおけるベストフレンド」が初めて日本から中国に転じるなか、駐豪大使時代は日本の重要性をどう認めてもらい、豪州が中国から圧力を受けるなかで腰折れしないようにするかが最大の課題であった。

最初に中国からの経済的威圧を受けたのは日本で、カナダ、フィリピンなども同様に威圧を受けたが、豪州の場合はとくに多岐にわたる品目が対象となった。それでも当時のモリソン首相は圧力に屈せず、原子力潜水艦を導入する安全保障枠組み「AUKUS(オーカス)」を創設。豪州内でモリソン政権の対中強硬姿勢に批判もあったが、日本としてモリソン政権を支え、その後の政権でも安易な妥協をしないようにサポートした。大使時代、中国の戦狼外交に日本大使として豪州で物申したことは数あれど、外務省として日本政府としてしっかりとできていたかには疑問が残る。

いまの日本外交は内向き志向で交渉力、発信力に欠ける。2022年に米下院議長の訪台を受け、中国が日本の排他的経済水域にミサイル5発を撃ち込んだときに外務次官が駐日中国大使に電話で抗議するにとどまるという体たらくだ。

山上元駐豪大使は、外交官の仕事を「日本という素晴らしい商品をいかに売り込み、相手国との関係をどう日本の国益に役立つよう活用するか、政府しかできない仕事だ」とし、「様々な技能を持った意欲ある外部人材の大量の投入なくして日本の地盤沈下は防げない」と日本外交、ひいては政治家の劣化に危機感を示すとともに様々な提言を行った。