山本善心の週刊「木曜コラム」 今週のテーマ     軍拡中国と東アジア情勢

2010年06月19日

東アジア諸国は沖縄米軍基地や対中政策などわが国の動向に注目し、気を揉んでいる。とくに、沖縄米軍の移転問題は最大の関心事だ。いまや中国海軍が東シナ海の領土・領海をわが物顔で闊歩する中、わが国の出方次第で周辺諸国に大きな影響を及ぼしかねないためである。

わが国が中国の圧力に屈すれば、他国の動きにも大きく影響する。日本政府が日中友好の海と呑気に構えているうちに中国海軍はどんどん東シナ海に艦船や潜水艦を繰り出すようになった。わが国が弱みを見せれば、中国はその弱みを突いて、東シナ海を友好の海どころか争いの海に変えようとするのはなぜか。中国は軍事力と経済力を振りかざしてわが国を脅し続けよう。

中国は東シナ海から西太平洋地域にも海洋覇権を求める動きが顕著である。その抑止力となるのが沖縄の米軍基地であった。沖縄に米軍基地があれば台湾の現状維持とわが国の安全は確保されよう。それゆえ筆者は最初から米軍基地は辺野古で妥協するしかないと言ってきた。

崩壊する米国の対中戦略

鳩山前首相の言う米軍の沖縄県外か国外移転が万が一実現すれば、東シナ海は中国の領海となる。つまり、台湾は中国に呑みこまれ、遠からず「一つの中国」となるであろう。県外・国外移転案は中国に媚びへつらう妥協案にほかならない。米軍が沖縄基地でわが国を守り、台湾関係法で台湾を守るのは、米国の覇権領域を手放したくないからだ。これまで中国の傲慢さと覇権主義に同調する日本の一部勢力らは中国の軍拡を誇大宣伝し、やみくもに恐怖心をあおり、結果的に中国に有利な展開を誘導して来た。

当初、鳩山前首相は去年の交渉で、日米合意がなされた辺野古移転案を破棄しようとしたが、世論の反対と米国側の意向で覆されている。鳩山政権がとろうとした安易な決断は、一歩間違えばわが国が進んで中国の属国になりかねないものであった。4月には、中国海軍の艦船が日本近海で大規模演習を行ったが、これは制海権と海域安全を担う米国海軍に対する明らかな挑戦だ。日米台は中国の急速な台頭を牽制する戦略が問われていよう。

日台は運命共同体

李登輝元総裁は大の親日家、知日家であり、その人格や卓越した見識の深さに加えて、総統時代の実績に対して、多くの日本人が深い敬意を抱いている。李登輝時代は、「自由と民主主義、人権と法治」を中華圏では初めての試みとして、台湾人による台湾人のための民主化を完成させた。台中関係は事実上「国と国の関係」であり、「一つの中国」とは、中国が勝手に主張しているだけのことだ。中国は刃物を手に軍事侵攻をちらつかせているから台湾人は「現状維持」と言っているにすぎない。

わが国と東アジアとの安全保障にとって、日台は軍事・外交的にも運命共同体である。さらに世界で6割強の軍事力を持つ米軍が日台はじめ西側陣営を守るという強力な武力があるために、東シナ海の安全が保たれてきた。鳩山氏の米国軽視は米国を中国寄りにし、日本軽視に追いやる政策に他ならない。

台湾の軍備増強

台湾の馬英久政権は中国寄りに傾倒して来たが、このところ中国の急激な台頭に押されて、ついに軍備増強に踏み切る。中国から台湾に向けたミサイルは1400基と想定され、台湾はこれまでのミサイル防衛だけでは守れないと判断した。中国は75隻の軍艦、65隻の潜水艦、265隻の船舶を保有し、
台湾上陸に備えて陸・海とも年々軍備増強している。

馬政権は、最近射程1000キロ以上の中距離弾道ミサイルや巡航ミサイルの製造を再開した。さらに、空母を迎撃する高速ミサイル艦の開発も検討し、これまでの守りから攻めに転じる構えだ。

台湾のみならず、豪州、ベトナム、シンガポールなどの周辺諸国も相次いで軍備増強に動き出した。米国では太平洋司令官が今年1月、米議会で与野党議員を前に中国海軍の脅威を訴えた。台湾、沖縄を取り巻く周辺情勢は緊迫の度を増す。あらためて日米安保の果たす役割がクローズアップされている。

中国の狙いは沖縄・尖閣だ

3月1日、中国は「海島保護法」という新法を施行し、領海域内の島の所有権は中国にあると一方的に宣言。海洋覇権への並々ならぬ野心を鮮明にした。中国が領有権を主張する島々は7千島近くあり、そのうち6千島近くが今後軍事衝突を招く恐れがでている。中国は自国の法律を都合の良いように改正して、周辺諸国に脅威を振り舞いてきた。

中国が狙う最大の軍事攻略地点とは沖縄であり、尖閣諸島だ。筆者は10年前から中国最大の狙いは沖縄だと確信を持って主張してきた。それは、沖縄を取れば、台湾が採れるという算段からである。沖縄はかつての「琉球諸島」として、中国歴代王朝の勢力圏であった。しかし沖縄に米軍基地がある限り、台湾を取ることはできない。

「軍拡」喧伝で威嚇

中国は米国と正面衝突の戦争をしたいわけではない。何といっても米軍は世界最強の軍事力、技術力、戦闘能力を有している。米軍が動けば、日本、台湾、韓国をはじめ周辺西側諸国が加わり、大戦争に発展しよう。そこまでの覚悟は中国にはない。現代の装備や近代化では米軍に勝てないことをわかっているからだ。

中国は軍拡を声高に喧伝することで、他国を威嚇することが常套手段である。かつての清の時代も、清国は軍拡を誇示し、海軍力をアピールした。しかしいざ日清戦争となると清国海軍は意外に弱かったという戦争経験者の記述を目にしたことがある。

中国の急速な軍拡という一面だけを捉えて米軍が身動きできない状態であるような「中国優位」の記述を目にするたび、国民に恐怖心を煽る演出に翻弄されて来た。中国は武器の質や性能、また兵
士の質や武器を扱う技術など真の軍事力を身に付けるにはさらに長い年月が必要だ。

危険をはらむ中台経済の一体化

米軍基地移転は紆余曲折を経て辺野古に決定した。筆者は昨年来、この問題は辺野古に落ち着くと明言してきた。辺野古への米軍基地設置が決まれば、中国の武力による「中台統一」は限りなく不可能に近い。しかし、中国は「先経後政」(経済を先に政治を後に)を掲げるしたたかさで台湾侵略を狙っている。

馬政権は中台経済の一本化に向けて、6月中の自由貿易協定(FTA)と中台経済協力枠組み協定(ECTA)の締結を目指している。中台間の貿易総額は、約9兆8千億円であり、さらに枠組み協定の実現でゼロ関税が必要だ。しかし中国経済は対外輸出拡大による経済成長は限界点に達しつつある。今後は内需拡大に目を向けるしかない。

しかし、馬政権の中台経済の一体化政策はやがて危険領域に踏み込むことになりかねない。中国が上昇気流にあるうちはよいが、登りつめた段階から間もなく下降トレンドがやって来る。それゆえ台湾は中国との関係を堅持しながら、インドをはじめアジア諸国との経済関係を調整し、方向転換を模索せざるを得まい。わが国ではいまや中国から他のアジア諸国に目が向き始めている。

台中抑止力の構築

台湾が中国に傾斜すればするほど、中国のペースから抜けきれなくなろう。馬政権の支持率39%、不支持43%(聯合報)と低迷しているが、多くの台湾国民は行き過ぎた対中政策に不信を抱いている。それゆえ、馬政権は中台新協定に挽回の望みを託すしかない。

これまで述べてきたとおり、日台間には共通の安全保障と経済問題が山積している。日台は決して中国の存在を否定するものではなく、経済的には今後も持ちつ持たれつであることにかわりはない。それと共に米軍との安全保障問題をあいまいにしてはならない。台湾民進党の蔡英文主席は5月25日、「中華民国は亡命政府」と宣言。中国主体、台湾客体の終わりを宣言した。国内の台湾主体意識が高まり、いまや台湾は大きく変わろうとしているが、それには日本の協力が必要不可欠だ。日台両国は政治と経済が一体化した新しい関係を構築すべきである。

李登輝元総統による台湾の民主化は実質的には東アジアの平和と安全を守る重要な砦を築いた。李氏はわが国の先人たちが台湾に残した近代化と日本精神に感謝の念を唱え高く評価されて来た。わが国先人たちが営々と築いた来た過去の偉大な功績と歴史に感謝し、日台関係の未来を確かなものに継承すべきだ。若い政治家や、企業家による日台交流に向けた積極的な関係構築を求めて止まない。

次回は6月17日(木)