台湾の総統選と立法院選のダブル選挙が来る14日に迫った。これまで立法院選が1月、総統選は同年3月に行われるのが通例であったが、今回は国民党側の思惑もあり、初の同時選挙となる。立法院は小選挙区73人、先住民枠6人、比例代表34人で計113人の新議員が選出される。いま台湾市内はダブル選挙の終盤戦で選挙一色だ。
今回の同時選挙は国民党に有利に働くよう設定されたと聞くが、票は狙い通りに伸びていない。民進党の選挙地盤である台南市では、国民党の立法委員候補者らが、選挙事務所の看板やポスターから馬氏の写真を外し、自身の写真のみをクローズアップするケースが多く、名前すら載せないとは前代未聞のことではなかろうか。
高雄市第一選区の立法委員候補者は「国民党候補者にとって、不人気な馬氏の顔は逆効果」「まず、馬氏を当てにせず、自分を売り込みたい」との本音を吐露している。高雄市の住民にとって、2009年8月の台風水害を放置した馬氏への不信と対中融和政策への懸念は根強い。国民党候補者もその点をよく理解しているので馬氏を避けているというわけだ。
あらゆる集会で野党民進党が優勢
現在のところ、世論調査の平均値は馬英九38%、蔡英文36%、宋楚瑜6%で拮抗しているが、国民党系といわれるマスメディアの票読みは当てにならない。たとえば、選挙地盤である台北市は国民党が強いとされてきたが、これまで見向きもされなかった民進党候補の演説会場は、今どこも超満員だとの情報が漏れ伝わる。
国民党の選挙運動が前回ほど盛り上がりが見られないのはなぜか。前回選挙では陳水扁前総統のマイナスイメージを引きずる民進党謝長廷候補が馬氏に220万票以上の大差で惨敗した。しかし、今回の各演説会場を見る限り、民進党によるかつての不人気は解消された雰囲気だ。一方、国民党が圧倒的多数を占める立法委員数は今回も過半数を確保できるとされているが、台湾市民の大勢は総統に蔡英文氏、との声が強い。国民党の牙城である文山区は前回70%以上が国民党系の票田であったが、今回は民進党候補者に人気がある。
昨年、12月17日のテレビ討論会で行われた演説会で「誰が良かったか」との調査で蔡英文氏の3万票に対して、馬英九氏が2千票と大差がついた。台湾各紙は揃って馬氏優勢を伝えたが、テレビの反応は圧倒的に蔡英文氏が優勢だ。
奇策で劣勢打開を目指す各候補者
しかしながら、何が起こるか分からないのが台湾の選挙だ。前々回の総統選では陳水扁候補の街宣車にピストルが撃ち込まれた。陳水扁氏は多くの市民から同情を受け、微差で逆転勝利している。つまり選挙前日まで誰が優勢であっても、何かが起これば瞬時に大量の浮動票が右から左へと移動するのが台湾選挙だ。
ここで見落としてならないのが第三の候補・宋楚瑜氏の動向だ。今のところ各紙で6%前後の支持率を確保しているが、これが数%増えれば総統選は大きく変わる。宋氏が6%から9%に支持率アップすれば蔡英文氏の圧勝になる。宋氏の本音は最初から馬氏を落とすことが目的で、馬氏が落ちれば宋氏の存在感が高まり、政治のイニシアチブを取ることも可能だ。宋楚瑜氏の夫人は演説が上手いことで定評がある。最後は台湾住民を泣かせる感動的な演出があるかもしれない。
いま裏社会のギャンブル関係者は馬英九氏に賭けている。ギャンブル好きな台湾市民が新聞の支持率どおり馬氏に賭けたとすれば、大量得票につながる可能性もある。さらに投票箱のすり替えなど不正選挙がないよう監視などを強化すべきだ。既に10日「台湾公正選挙国際委員会」一行が台湾入りした。
馬氏は指導者としての品格と教養を売りにせよ
様々な関係筋から現場の情報を収集、チェックしているが、台湾の総統選は野党民進党に有利に働き、立法委員の議席数が大幅に増える見込みだ。欧米では、顔の善し悪しより人間としての品性と教養が美人の条件である。蔡氏に対する台湾住民の信頼が高いのは知性と誠実性に他ならない。
四年前、馬氏は50代後半で甘いルックスを売り物に大量の女性票を獲得したが、今回は馬氏の勢いに翳りが見えている。最近の馬氏は、テレビ画像を通じて厚化粧の若づくりが痛々しく見える。62歳にもなって外見を売りに、厚化粧で飾り立てるのは気持ちが悪い。
それだけならまだしも、最近は馬氏の神通力が無いのか、妻がテレビCMに演出して、馬氏の不人気をカバーしようと躍起だ。最近の馬氏にはしわが滅法増え、やつれた雰囲気が漂うのが気になる。人間、年を重ねれば、そのぶん人生の深みがしわに刻まれて味がある筈だ。馬氏は、若づくりのルックスなどより、指導者としての品格と教養を売りにすべきではなかろうか。
台湾企業の主導権は中国側に移行
馬氏が頼りにしているのは、中国に住む在外華僑による帰郷投票だ。現在台湾には100万人の台湾人が中国でビジネス展開をしている。そこで、国民党と中国側が台湾人に交通費の一部負担を始めあらゆる特典を与えて台湾へ帰郷するよう総力を挙げて帰国を促してきた。しかし、彼らの大半は中国に対する忠誠心もなく、わざわざ台湾に戻ってまで投票する気持ちは持ち合わせていない。
というのは、四年前と異なり、彼らが中国に対する依存心がなくなってきたからだ。これまで中国相手のビジネスは台湾主導で行われてきた。最近は中国側の要請で現地の責任者は中国人にするよう義務付けられるなど、台湾人経営者が経営に信頼と責任を持てず嫌気がさしている。
これまでの台湾企業はオーナーとして意のままにやりたい放題の中国ビジネスを展開できた。台湾企業家は中国の地でビジネス展開することで確かな利益を上げ、愛人を囲い、カネをばらまき、勝者の欲望を発散させてきたものだ。しかし、ここにきて、中国のインフレ、人件費高騰、経済バブルの崩壊など、台湾の中国ビジネスも大きな転換点を迎え始めた。それゆえ、台湾企業も4年前と比べて中国への関心と価値観の薄まりは日を追う毎に顕著だ。
中国ブームが終わり、台湾経済は不況に突入
先に述べた国民党政権の誘導による海外登録者数は下記のとおりである。たとえば、帰郷者の統計人数によると前々回の2004年は15万人、前回2008年は20万人であったが、今回は25万人以上が目標だ。
前回の総統選と比較すると国民党政権や馬氏への関心が薄い傾向は否めず、台湾有権者の馬氏離れがいっそう進みそうだ。馬氏を応援しているのは企業家らであるが、彼らは馬氏におべんちゃらを使って漁夫の利を得てきただけだ。しかし、馬氏は中国と台湾の経済関係を発展させたのは自分であると思い詰めているが、現実は反対の方向に進みつつある。しかし、中国との関係改善に道を開いた馬氏の功績は高く評価すべきだ。
馬政権は1949年以来分断されてきた海運直行便と郵便の直接往来を解禁。これにより「三通」(中台間の直接の通商、通航、通信)が実現した。一時的な中国ブームから、今では馬氏の言うほど、台湾の中国ビジネスが順調に進んでいるわけではない。しかし、馬氏は中台経済の実態と深刻な世界経済など、台湾を取り巻く厳しい経済環境を把握していない姿勢と発言が気にかかる。
開票迫る! ~追い風蔡英文、向い風の馬英九
いよいよ、台湾の命運を決する台湾総統選の投票日が近づいた。今回の選挙には全世界が関心を持ち、投票結果の行方を注目していよう。これまで台湾で党首討論を5回も行ってきたが、蔡英文氏のテレビ支持率が馬氏をリードしていると述べてきた。とくに蔡英文氏の演説は何か面白いわけでも話上手というわけでもないが、誠実な人柄とまじめな語り口が台湾住民に好感されている。
蔡英文氏の人気に気を良くした民進党グループの関係者はみな勢いが良い。蔡英文氏は労働者や農家を味方につけようと躍起だ。馬氏は経済界を味方につけて輸出拡大を主張して止まない。
筆者は昨年暮れから二回にわたって台湾総統選の状況を掲載したが、間もなく新総統誕生の審判が下る。台湾人は「現状維持」派が90%近くの大勢に達しているが、馬氏は中台融和の「政治協議」を検討すると発言したことで一気に馬氏への支持率が急降下した。それでも台湾総統選の新聞支持率は馬氏優勢とあるが、台湾選挙戦の現場を見る限り、蔡氏が一歩リードしているとの印象が強い。台湾初の女性総統の誕生が刻々と近づいているかのようだ。次回は新総統誕生とこれからの台湾について申し述べたいと思う。
次回は1月19日(木)