本年最後の「木曜コラム」となる。この一年を振り返って強く印象に残る出来事とは日中関係の悪化と尖閣諸島問題であった。それに年内に行われた第46回衆院選で自民党は296議席を獲得大勝した。これは過半数241議席をはるかに超えるものだ。民主党政権の3年3ヵ月、日本経済は急速に衰退の道を歩んで来たのは周知のとおりである。円高、デフレから脱却できず国内製造業は競って海外工場に活路を求めて進出した。一方、国内では雇用と低賃金がさらなる悪化を辿るばかりである。
民主党政権の経済対策は機能せず全く放置してきたといっても過言ではない。民主党政権の残した問題点は「景気低迷、財政悪化、円高・デフレの放置、日米・日中関係の悪化をもたらした。」国内では「震災復興の遅れ、原発事故処理の失敗、電力不足、貿易赤字の転換など国益を損じる事態が相次ぎ続出した」のである。
このような危機を迎えた日本の外交・経済であるが、ピンチから抜け出すどころか、悪循環に陥ってしまった。野田氏が首相特権を生かして解散したのはこの状況から民主党政権が脱皮できないと判断したからであろう。これ以上続けば民主党解党に陥る事態になったかもしれない。野田氏の解散決断は一国のトップとして正しい判断であった。
人気に媚びない冷静な選択
今回は自民党議席の増大に引き換え、民主党は57議席しか取れず惨敗した。一方、第3極は一本化できず石原太陽の党が合流した「日本維新の会」は54議席、みんなの党18議席、日本未来の党は9議席とふるわなかった。
自民党の大勝に対して、各ジャーナリストの論説や社説を読むと有権者が「民主党にNO」を突きつけたからと主張している。しかし、今回の選挙はそんな単純なものであったのか。国民にとって経済の立て直しは絶対不可欠な条件であった。
有権者は第3極のごたごたに嫌気が差したのも事実であろうが、ジャーナリストらは民主党に対する完全不信と第3極の乱立という敵失により票が勝手に自民党の懐に転がり込んできたと解釈した。しかし、果たしてそれだけであろうか。
今回の選挙は有権者が冷静に対処したのみならず、ブレのない賢明な選択であったと思う。しかし国民の大勢は次のリーダーが安倍氏なら安心して国政を任せられるとする期待の声が大きかったのは事前調査で明白となっている。安倍氏は前首相の時代にはいくつかの法案を可決した実績がある。
このところ国民の判断と選択には大きな変化が見られる。決して大衆迎合的な政治家を評価していない。人気や国民受けの政策が政治の決定的な力になり得ていないのは、最近の傾向であり、国民の冷静な判断とレベルアップと考えてよい。人気だけでないことは、名古屋の河村たかし氏らの「減税日本」(日本未来の党)は地元で当選者が一人も出なかったことを見ても歴然としている。
元横浜市長の中田宏氏
元宮崎県知事の東国原英夫氏、元横浜市長の中田宏氏、それに東京都知事の石原慎太郎氏らは市長、知事の要職を投げ捨て維新に合流して選挙の顔になっている。これまで彼らは橋下徹氏ほどの政治的力量、成果もなかった。石原慎太郎元東京都知事もあとわずかな任期を残して知事の座を投げ捨てた。
日本社会は前歴、前職を大切にするものだ。知事とは都民や県民を代表する首長である。その代表者たるものが任期途中で職を辞するのは都民を裏切ることに他ならない。にもかかわらず、国民はそうした行動に対して何の思いをめぐらすこともなく不感症になったかの感もある。国民は国を代表する国会議員を選択する義務と責任がある。優秀な人材を国会に送るのが使命だ。
最近の知事・市長は人気によって就任した人が多い。彼らは人気で当選したのであるから、魅力的な風が吹いてくるとそちらに関心を寄せる。人気という匂いを嗅いで住み心地の良いところへ流れていく勝手鴉だ。
選挙前、河村たかし氏と親しい知人から連絡をもらった。昨夜、市長から相談を受けて、市長を辞めて出馬したいとの事だった。知人は賢明な人なので答えは一日待って欲しいと答えた。当方にも意見を求められたが、市長を放り投げて出馬すれば次の人生に失敗すると忠告した。これは一市長として道徳に悖ることだと述べた。今、我々日本人には物事に対する原理原則であるとか、責任、道徳心という言葉の重みが軽視されていまいか。
さて、話は変わるが石原氏の辞職に伴う東京都知事選挙で猪瀬直樹氏が433万票を超える大量得票で圧勝した。猪瀬氏は言葉遣いが横暴で印象を悪くする人もいるが本人は決してそんな気はない。筆者から見た猪瀬氏は情に厚く律儀な人である。さて、猪瀬氏の当選は副都知事時代からの実績と信頼に尽きると思う。
今回の衆院選で「盤石区」と言われた選挙区で大物議員が相次いで落選した。徳島一区では民主党の官房長官である仙石由人氏である。仙石氏は民主党で多くの閣僚を経験し民主党の左翼を一本に固めた功労者でもあった。その一方で小沢一郎とは最初から「反小沢」を旗印にして党内抗争を繰り返してきた。小沢氏も最初から仙石氏を相手にせず無視し続けてきたのである。
しかし、このような党内抗争は常にマスメディアの話題になり、民主党のイメージを落とした。有権者の一部はこのような仙石氏の存在をよしとしなかった。国民の代表として選ばれたからには「仙石イデオロギー闘争」を国家に持ち込まず、国家の発展のために、働いてくれるよう期待しているのだ。
16日各社の出口調査で、前回の衆院選(’09)に比べ、無党派層の民主党離れが圧倒的であった。たとえば、民主党に投票した無党派層に限定すれば選挙区候補では前回の59%から22%に、比例選は前回の52%から13%に投票率が転落した。徳島1区は民主党の支持基盤区であったが、民主党ベテラン候補を振るい落とした。
もう一人挙げるとすれば新潟5区で7選に落選した田中真紀子氏(68歳)である。1947年父親の田中角栄が初当選して以来、60年以上にわたって築いてきた「田中王国」はもろくも崩れ落ちたのである。
大物候補はこれ以外にも多数落選し、選挙区で敗れて比例で復活するなど政界浄化、整理淘汰が行われた。今回の選挙では先にも述べた通り、人気とか大衆迎合、見た目しかない表面的なパフォーマンス政治から一定の距離を置く有権者の態度が目立った。有権者の大勢はダメなものは落とす、良いものは残すといった冷静な選択がなされた印象が強い。
たとえば、自民党総裁選では石破茂氏が当初圧倒的有利と目されてきたが、結果は安倍晋三氏が総裁に選ばれたのである。今回の選挙は日本の将来にとって命運を決する闘いであった。それゆえ自民党議員の大勢は石原伸晃氏や石破氏よりも経験と実績のある安倍氏が良いと判断した。
ニセ者は自らを着飾り、立派に見せようとするが、一日経つごとにボロが見えてくる。本物はいつも変わらず相手に対する気配り心配りを忘れない人達だ。安倍氏は10年経っても30年経っても変わらぬ安倍晋三氏だと側近筋は尊敬する。安倍氏は品格があり、道徳性があり国家観がある。
安倍氏は間もなく新首相に就任するであろう。就任後7ヵ月間は日本経済の復活に向けてあらゆる経済政策を躊躇せずに実行する。7ヵ月後の参院選に勝つことがたくさんの法案を可決できる最大の手段である。参院選次第では懸案の法案が目白押しに可決されていこう。
民主党政権で壊わされた教育改正の修正復活を始め、憲法改正、TPP問題など案件が山積みだ。当コラムも本年はこれで終わりとなる。来年は安倍政権の本格的なスタートであるが、経済が良くなり外交が安定する安倍政権に期待して止まない。
次回は1月10日(木)