「アジア会議」2017年9月26日(火) 講師/西野純也 慶應義塾大学法学部教授・同大学現代韓国研究センター長

2017年09月26日
  

「朝鮮半島情勢の新展開を読み解く」

 朴前大統領の罷免、断罪という特殊な状況下で発足した文在寅政権はこれまで高い支持率を誇っていたが、北朝鮮危機への対応不安から8月以降下落傾向が見られる。前政権からの引き継ぎもなく、就任後は緊迫した国際情勢への対応に忙殺されてきた。とりわけ、韓国の弾劾政局中に発足したトランプ政権との関係構築が喫緊の課題であった。

 文大統領は20代~40代から依然高い支持を得ているが、もともと保守層には人気がない。具体的な政策の中身より国民に開かれた政権運営のスタイルによって支持を得ている側面が強く、緊迫した北朝鮮情勢への対応が不十分との不満が支持を押し下げ始めた。

 文政権は“李、朴政権の9年間の保守政権の様々な過ちを正す”ため、政治・司法・財閥・国会の改革を行いたいと考えているが、北朝鮮問題への対応で国内問題にまで十分に手が回らないのが実状だ。また、国会で与党は過半数を持たず、さらに政権人事でのつまずきもあり、苦しい国政、外交運営が続いている。2020年4月まで総選挙はないが、来年6月の統一地方選挙が今後の韓国の政局を占う重要な局面となる。

 韓国では北の核開発に対抗するため、核を保有すべきという世論が6割を占めるが、そうなれば米韓同盟に否定的影響が出ることや国際社会から孤立することを多くの国民は真剣に考慮した上での回答ではない。また、多くの韓国民は北への人道支援については厳しい認識を示してはいるが、文政権は人道支援を行う方針を示したし、今後も南北対話を模索し続けるだろう。それが過去の保守政権を否定する文政権の拠り所であり、対話によって朝鮮半島の緊張緩和をもたらすことが真の安全保障だと認識しているからである。

 核問題について、文大統領は第一段階で凍結、第二段階で放棄という「二段階アプローチ」を提案しているが、これは北朝鮮の限定的核保有を認めることになりかねないため、現状では日米にとっては受け入れ難い提案である。一方、文政権は対北融和路線、とのイメージが強いが、対北朝鮮抑止、防衛には相当な力を入れていることにも留意すべきである。

 最後に日韓関係について西野氏は、文政権は歴史問題を軽視しているわけではないが、北朝鮮問題が緊迫している現状では日韓関係をうまく管理したいと考えているはずであり、歴史問題の優先準備はそれほど高くはない。できれば1998年の日韓共同宣言20周年を日韓関係改善のきっかけとしたいと考えているはず、と語った。