「アジア会議」2018年4月23日(月) 講師/武貞秀士  拓植大学大学院特任教授

2018年04月23日
  

「南北首脳会談で朝鮮半島はどうなるか」

 昨年11月29日、大陸間弾道ミサイルを発射したあと、北朝鮮は外交関係の改善に力を入れ始めた。金正恩体制のもとで軍事と経済の並進路線を歩みながら、観光客誘致、外貨獲得に力を入れていた。北朝鮮の地下資源と地政学的条件に着目した中国とロシアとの経済関係を発展させつつ、北朝鮮は韓国に親北の文在寅政権が誕生したのを好機と捉え、冬季五輪を活用して韓国との関係改善に乗り出した。

 4月20日の労働党中央委員会総会決定書にあるように、北朝鮮は核兵器を放棄しないし、核開発の進展に自信を深めている。米国の軍事介入を阻止できれば自らの主導で朝鮮半島を統一できると考え、核保有国であることを憲法に明記している。

 現在の文政権のような親北政権が続けば、南北朝鮮は軍事衝突なしにいずれ統一に向かう。日本と米国は圧力と制裁を維持しながら核兵器放棄を決断させる政策を続けている。北朝鮮は核兵器を保有しながら国際社会の制裁を解除させて外交関係を改善し、米国との関係正常化を追求している。北朝鮮の核は、インドやパキスタンのような「使えない核兵器」として残る可能性が出てきている。

 北朝鮮は韓国との関係改善の勢いで米朝関係正常化をしたい。しかし、核兵器放棄の確約をとりたい米国と、核を放棄しようとしない北朝鮮とは平行線を辿るだろう。米国が首脳会談をキャンセルすれば、金正恩体制を韓国と中国のほうに追いやってしまうことになる。米国の政策の選択肢が減ってきている。

 わが国は、平昌五輪を契機に進展し、「同じ民族」「自主統一」をキーワードにしている南北関係の本質を見極める必要がある。日本にとっての安保上の懸念が残ったままであるのだから、むしろ日朝直接対話が必要だ。国会議員の訪朝団、安全保障問題を含めた国際関係を議論する学術交流、東京五輪に向けたスポーツ交流の促進など、国際社会の流れに沿って日本がなすべきことは多い。

 武貞氏は「トランプ政権は北朝鮮に対してアメとムチを使い分けて交渉している。いまの日本はムチを行使するだけになっている」と説明。拉致問題については「『完璧な一度だけの報告書を受け取るまでは交渉をしない』という姿勢では拉致問題解決には至らない」と指摘した。そのほか、「4月末の南北首脳会談では南北関係で大胆な文言が盛り込まれることは間違いない」と予測した。その後の質疑応答で南北統一後の日本の利益と損失について質問が及ぶと、「損失は何もない。むしろ統一されれば統一コリアは経済再建の経費捻出のため、軍縮が課題となるし、東アジアは日中コリアの正三角形となり、経済的にも相互補完関係が進む」との見解を示した。