「北朝鮮核問題の行方」
南北首脳会談は北朝鮮側からの発意であることが演出され、金正恩のイメージを一新し、南北宥和の意思を示したという意味において大いに成功した。板門店宣言は南北宥和と北朝鮮の非核化とは必ずしも結びつくものではないというメッセージが読み取れることにも注目したい。しかし非核化が進まず南北交流だけが進むとも思えない。
中国も巻き込みつつ、軍事、経済的に最大限圧力を行使しながら米朝首脳会談の実現を目指すトランプ政権。中国との貿易戦争になる恐れもあり、米国の対中、対北政策には目が離せない。ロシアゲートの捜査など、厳しい国内情勢のなかで、トランプ大統領は北朝鮮問題と対中貿易問題で大きな成果を挙げることで起死回生を図りたい。
「北朝鮮が非核化するわけがない」というのが多くの専門家の共通認識だが、交渉次第では北朝鮮の非核化もあり得る。ただし両国の非核化の概念は異なる。米国は北朝鮮に対して「完全かつ検証可能で不可逆的な非核化」を求めるだろうが、北朝鮮は制裁の緩和、在韓米軍の撤退、米韓の軍事演習の中止要求を含めた、あくまで“朝鮮半島の”非核化を、時間をかけて段階的に進めていくことを考えている。保守と革新の対峙が激しい韓国で、北朝鮮との宥和は文政権の政治課題。米朝の話し合いが決裂し、軍事的オプションの行使に持ち込まれることを何としても避けたい文政権は北朝鮮の考える非核化を支持するだろう。
小泉政権時代に外務審議官として北朝鮮と水面下での交渉を担当した田中氏。2005年9月の六者協議の合意履行が図られなかった経緯や、近隣の大国に蹂躙されてきた北朝鮮の歴史、同国の儒教的な発想についても詳細に解説した。日本の取るべき立場については、「達成すべき目標を明確にし、まずは自国の利益を考え、拉致問題は同盟関係に頼らず自分たちで戦略的に進めていかなければならない」「圧力は米韓中との4カ国の連携、万が一の事態に備えた危機管理計画、北朝鮮の連絡チャンネルと共に進めなければならない」と主張。また、「核問題を解決することが拉致問題を交渉し解決するための早道」として「経済協力を交渉カードとすべき」「戦略を練って交渉に臨み、結果をつくるために尽力するのが外交だ」などと強く訴えた。