「台湾は中国に飲み込まれるか」
昨年11月の台湾統一地方選で蔡英文総統率いる与党・民進党は国民党に大敗し、民進党内外で蔡英文の続投を疑問視する声が相次いだ。2020年1月の次期総統選までこのまま国民党の勢いが続き、大勝利ともなればアジア情勢が一変する可能性も高かった。ところが、今年1月2日に習近平が発表した「台湾同胞に告ぐ書」で状況は一変する。これまで中台が『一つの中国』の原則を確認しつつ、“中国”が何を指すのかはそれぞれが解釈するとした「92年コンセンサス」を「一国二制度による統一である」との見解を示したのだ。台湾人の多くが現状維持派であり、中国との衝突を避けるべく曖昧にしてきたコンセンサスを一方的に破棄するような習近平の発表に台湾は騒然となり、「断固として受け入れられない」と声明を発表した蔡英文の支持率はにわかに上昇した。改革開放40周年の席上、習近平は過去70年間に共産党指導者が一度も使ってこなかった“危機”を匂わせる文言を頻出し、自らの政権が窮地にあることを露呈。任期を撤廃した昨年3月が習近平の権力のピークであり、米中貿易戦争で中国経済が失速すれば政権の存続が危ぶまれる。中国公式GDP、失業率はあてにならず、実質成長率は1.67%、失業率は22%との試算もある。今後、中国から外資系の撤退が相次げば失業者の急増で社会的混乱が起こることは必至だ。
中国人民の不満のはけ口をつくるつもりで禁じ手である台湾カードを切った習近平だったが、これには米国も抗議し、親中国であるドイツも追随、世界を敵に回してしまった。蔡英文も国防を強化するとともに、台湾に40万人いる中国人嫁への対話などハード、ソフト両面で現状維持に向けた動きを強めている。2019年は天安門事件30周年、ウィグル鎮圧10周年など中国にとって節目の年。米中間の貿易戦争がどういう結果になろうと中国経済、社会は不安定になる。そうなれば日本も無関係ではいられない。
林氏は、中国共産党内にくすぶる内紛の可能性を様々に指摘し、「独裁政治は永遠には続かない。崩壊しない帝国は存在しない。習近平が終身の指導者になるか、最後の国家主席になるのか注目したい」と語った。