「アメリカは覇権を守れるかー金融という最後の手段」
トランプ大統領の対外政策の特徴は同盟を軽視し、独裁者との関係を構築するなど歴代政権が築いてきた普遍的価値観を軽視していることに加え、軍事介入を嫌い、その代わりに経済制裁を多発していることだ。米国の経済制裁対象となるSDN(特別指定国民・組織)の指定数はオバマ政権時の年100〰600件と比較して、トランプ政権では、年1000〰1500件と飛躍的に増加。金融制裁と国外適用が米の経済制裁の特徴だ。イランに対しては制裁を復活させ、北朝鮮は首脳会談を行っても解除せず、中国に対しては追加関税に加え、ファーウェイCFO逮捕という徹底ぶり。しかし、巨額の罰金の根拠が不透明で、徴収後の使途も不明であり、冤罪の可能性も大きい。そもそも制裁の目的が不透明で解除の見通しもない。制裁には丁寧な外交、強い軍事圧力、国際協力が必要だが、トランプ政権にはどれも欠けており、その制裁偏重主義は効果を上げていない。イランについてはオバマ政権時代にまとめた核合意から一方的に離脱し制裁を復活させたり、北朝鮮にはせっかく効果を上げてきた軍事圧力を緩めたりと行動に整合性がない。まじめな交渉をしていると思えないのが現状である。
根本的な問題はイラク戦争の失敗以降、米国の軍事的・対外的コミットメントの弱体化が世界で進んでいることにある。世界経済が多極化しているにも関わらずに、ドルが国際通貨として力を持ち実態経済と通貨の世界に乖離ができていることも問題だ。最近では世界各国から米ドルの覇権の行方を疑問視する声が増えており、人工的な合成覇権通貨をつくろうという提唱もされている。中国、ロシア、中東、欧州の一部などユーラシア大陸では米国のドル制裁に対抗して、他の通貨の使用を増やそうという米国に挑戦する動きも活発になっている。
杉田氏は、豊富な米国での取材経験をもとに様々な角度から米国の制裁の現状や問題点を分析。「米国が世界の覇権的地位にあることが世界の安定には一番いいと思う」と前置きしたうえで、「トランプ大統領のやり方は米国の覇権的地位を空洞化させている」と批判し、「米国自体が弱体化し、万全と思われた金融システムの綻びも見えてきた。長期的には基軸通貨ドルの衰退の流れは止まらない」との見通しを述べた。