「アジア会議」2020年11月24日 講師/古森 義久 産経新聞ワシントン駐在客員特派員・麗澤大学特別教授・Japan Forward 特別顧問

2020年11月24日
  
「大統領選後のアメリカと世界」
 

 新型コロナウィルスの感染拡大で米大統領選の形態は大きく変貌を遂げた。本来は1年半近くに及ぶ大統領選だが、選挙活動の一時中断を余儀なくされ、郵便投票を含めた期日前投票が大幅に増えた。また争点がバイデン候補の掲げる政策や人物像よりもトランプの信任投票の体を成し、トランプ大統領と民主党系メディアの対決も鮮明となった。中立、客観性を重んじる米の主要メディアが、こと国内政治となると伝統的に民主側についてしまう。ワシントンの大手メディアの9割は民主党員。そのメディアに初めて面と向かって戦いを挑んだ大統領がトランプであった。

 投票後は米国内が大混乱に陥った。トランプ側は郵便投票に不正があったとしていまだに敗北を認めていないが、これには根拠もある。複数の市民団体の調査によって接戦州に180万もの“幽霊有権者”や、2万人もの死亡者が有権者になっていたなどということがわかっている。民主党はここ数年来、全米各地で事前投票、とくに郵便投票を重視し、その基準が寛容になるよう選挙法案の改正に向けて動いてきたことも事実だ。

 バイデンはコロナ対策、経済再建、社会福祉を3大政策に挙げており、バイデン政権が誕生すれば、内政最優先となることは間違いない。「大きな政府」を目指すバイデン政権下で法人税の増税、警察予算の縮小などが懸念される。対外政策ではパリ協定、WHO復帰を掲げているがあくまで優先度は低い。

 米国内では中国が当初コロナウィルスを隠蔽し、人から人には感染しないと政府の虚偽の公式声明を出したことへの反発が激しい。“空白の50日”の間に適切な対応を取っていればここまで世界的に蔓延しなかったとして中国への非難を超党派で強めている。民主党政権でもこの点に対中強硬策の素地がある。バイデンは中国への強硬姿勢を主張するが、トランプ政権が対中抑止のために軍事費を増強したのに対し、軍事費の削減を明言しており、

 対中姿勢はどうしてもトランプ政権より軟弱となる。中国の軍事的威圧・侵略の対象となっている尖閣問題を考えると日本にとっては情勢は厳しくなるだろう。

 現地で長年にわたり米大統領選を取材してきた古森氏。バイデンの人物像についても触れ、数字や人物の名前を間違える、長いスピーチをせず、質疑応答も受け付けない事実から認知症の兆候を指摘。中国への癒着やそうした事実を一切指摘しない民主党寄りのメディアの姿勢を非難した。その後の質疑応答でも活発なやりとりが行われた。