「2021年の全人代の注目点と中国経済の展望」
コロナ禍で世界の主要国がマイナス成長に落ち込むなか、中国が唯一プラス成長となった。多くの国際機関が中国を刺激しないよう中国当局の統計を鵜呑みにしている側面があるとはいえ、一党独裁ゆえに早期の思い切った都市封鎖でコロナの感染を抑制でき、経済活動を正常化できたことは大きかった。個人消費の拡大も中国経済の成長を後押しした。急速な高齢化が進む一方で、社会保障が整備されていない中国では一般家計の貯蓄率は非常に高くなっており、巨額の中国マネーが世界の金の価格上昇、米国都市部の不動産価格の上昇にもつながっている。
米国バイデン政権はトランプ前政権よりも人権、価値観で中国に対して厳しい注文をつけることは確実で、香港で一国二制度が揺れ動いている現状で、米中対立は長期化することは間違いない。
柯隆氏はこのほか、共産党五中全会報告で多く言及された言葉を元に、中国内の失業率の高さや中小企業の危うい現状、弱いソーシャルセーフティネットなど中国社会が抱える様々な課題について指摘したほか、サプライチェーンにおける中国の強みと弱みなどを分析。スマートフォンなどにみられる世界各国の技術の価値配分、米国、日本、インド、中国などの国民性についても詳細に解説した。日中関係については、「日本にとって中国は工場でもあり、市場でもあり、長期的には不安な要素も多いが、短期的には歩み寄る場面はある」との持論を述べた。一方で、香港に代わるオフショア金融センターとして東京が成りえたシナリオに言及し、「日本には国家戦略がなく、大企業の決断が遅い」など、大事な局面での日本の対応のまずさを指摘した。その後の質疑応答で「米国へ留学する中国人が多い割にはなぜ米国に技術で追いつけないのか」などさまざまな質問が寄せられた。柯隆氏は留学生の7割が中国に帰国していない事実を指摘し、中国の技術の弱さに触れるとともに、中国人と日本人の気質から各国の得意分野に言及し、日本に対しては「いまある技術を活かせるビジネスモデルをつくることが必要だ」などと語った。