「アジア会議」11月29日(月) 講師/野嶋 剛 ジャーナリスト・大東文化大学社会学部特任教授・元朝日新聞台北支局長

2021年11月29日
  

「中国『台湾侵攻』の可能性と蔡英文政権及び日米の対応」

 

 中国の超大国化に伴い、台湾問題の重要性は高まりつつある。中国は台湾とほぼ互角だった30年前に比べて軍事費は台湾の16倍、GDPは22倍に。70年代から掲げる“台湾統一”に向けて、「もはや台湾海峡の中間線など存在しない」と一方的な現状変更を迫り、中台はかつてない緊張状態にある。

 中国共産党にとって台湾統一は「義務」とも言える果たすべき最重要課題の一つであり、“平和的統一”“武力統一”の二枚看板で今後も進めてくるだろう。サイバー攻撃でインフラを麻痺させ、軍事拠点へのミサイル攻撃で制海権、制空権を取り、特殊工作員による要人拘束・暗殺などのシナリオも考えられる。大規模な渡海作戦はまだ難しいが、人民解放軍はこうした能力を充分に備えつつある。一方、香港の情勢悪化や台湾のコロナ対策の成功によって台湾内の親中勢力は育たず、習近平の台湾政策はうまくいっているとは言い難い。

 こうした中国の圧力に対し、台湾は民主主義、半導体、日米同盟の3つの盾で対峙する構えだ。民主主義や進歩的な価値観で欧米世界の指示を集めながら、世界の半導体製造の7割という圧倒的な市場支配力で世界を味方につけ、軍事面は日米を巻き込むことで中国の攻撃に備えたい。しかし、台湾の対中依存からの脱却は難しく、国内での政治対立は激しい。自立と繁栄のジレンマに対する答えはいまも出ていない。

 米国の台湾政策は、この1年で米台合同軍事演習や、折に触れて台湾支持の姿勢を示すなど、かつての“冷戦期の遺物” から “民主主義のパートナー”という位置づけに変わった。

 野嶋氏は、台湾の地理的優位性、台湾史について詳細に解説。世界で大国に蹂躙されてきたチェコ、リトアニアなどが台湾支持を強めている現状についても言及し、「日本も台湾との実務的交流を強化し、TPPの台湾加盟支持など積極的な姿勢を示すべき」と述べた。また、中国の台湾統一のシナリオについて、離島である東沙諸島奪取の可能性についても示唆。「習近平政権になって台湾政策が後退したとみなされないよう、人民解放軍100周年にあたる2027年に何らかの動きがあるのではないか」と予想した。このほか、来年11月の統一地方選、2024年の総統選についても触れ、「民進党はなお苦戦しながらも、政権維持は長期化する」との見通しを述べた。