「アジア安保会議」2022年3月25日 講師/西野 純也  慶應大学法学部教授・同大学現代韓国研究センター長

2022年03月25日
  

「尹錫悦新大統領の発足と朝鮮半島情勢」

 3月の韓国大統領選で保守系最大野党「国民の力」の尹錫悦氏が当選した。1987年の民主化以降、最も僅差での当選で、韓国内でイデオロギー、感情の対立が強くなるなか、政治経験のまったくない尹氏の政権運営の船出は厳しいものとなるだろう。

 「国民統合が必要」と訴える尹氏だが、国政課題、女性家族部廃止を含む省庁再編など、様々な課題が山積しており、新政権発足以前に足元を固めることが先決だ。側近と党グループ、ブレーンやシンクタンクなど専門家と官僚間でうまく協調関係を築けるのか、安哲秀氏率いる政権引継ぎ委員会がその試金石となろう。いまのままでは野党の反対で閣僚が揃わないまま新政権発足する可能性も高い。

 選挙公約に掲げた大統領室移転や人事を巡って新旧権力の対立が激化している。2024年4月の国会議員選挙までに尹氏がコロナ対応、住宅、雇用問題などでどれだけの手腕を発揮できるかに注目が集まる。

 いまや世界10位の経済大国、成熟した民主主義国としての自覚と誇りを持った韓国の外交安保政策の基調も大きく変わることが予想される。朝鮮半島を重視した文政権が防衛抑止力をおろそかにした反省から、尹政権ではグローバル中軸国家として、米韓同盟強化で拡大抑止の強化、自由民主主義連帯を一層重視し、クアッド参加にも前向きに、米韓「包括的戦略同盟」を目指す。外交でも李明博政権時代の顔ぶれが再登場する予定で歴代保守政権との連続性にも期待できる。

 ただ、拡大抑止の強化において、合同軍事演習正常化によって北への抑止力を示すことが予期せぬ形で南北緊張激化につながる恐れもあり、それには細心の注意を払う必要がある。

 西野氏は、先の韓国大統領選の地域別得票率、年代、男女別投票行動について解説し、韓国で地域、世代、ジェンダーなど社会の分断が進んでいる実態を指摘。韓国が包括的戦略同盟を目指すうえで課題とする経済安全保障では「韓国は日本の取り組みに大きな関心を寄せている。ただ、それ以前に、日本が採った輸出管理の運用の見直しから日韓関係解決の糸口を見つけていく必要があるだろう」と持論を述べた。