2023年5月19日「アジア安保会議」講師/小原 凡司 笹川平和財団上席フェロー・東海大学平和戦略国際研究所研究員

2023年05月19日
  

「領域を越えたウクライナ戦争の影響」

 ゼレンスキー大統領はウクライナの大規模な反転攻勢が近いことを示唆しているが装備不足なのが実状だ。一方、ロシアは正規軍と民間軍事会社ワグネルとの確執や国内の権力闘争があり、一進一退の攻防が続いている。クレムリンがドローン攻撃を受け、プーチンの自作自演説も浮上しているが、国内を鼓舞するにしては疑問が残る。ロシア軍の権威を落としたい国内の第三者の可能性が高い。

 中立の平和を追求する大国を主張する中国は、ロシアに停戦を働きかけるも相手にされず、さりとて米国主導による停戦は受け入れがたい。水面下で進めている軍拡への影響を危惧してプーチンの核兵器使用にも反対で、ロシアへの武器支援は行いたくないのが本音だ。その一方で兵器への転用が可能な電子機器をはじめとする機械類の対ロシア輸出は伸び続け、ロシアへの武器支援を間接的に行っているとも言える。

 ウクライナ戦争は単に欧州の局地的な戦争にとどまらず、サイバー空間、宇宙、サプライ・チェーンなど、国境を跨ぐ領域が戦争の一部となる、国際社会の秩序を破壊する戦争だ。核で恫喝すれば国際社会は侵略戦争を止められないと各国は核の威力を再認識するに至った。国際社会の秩序を維持するためにも、国際社会全体がウクライナ支援で結束してこの戦争を止めなくてはならない。

 小原氏は、クラウドファンディングを用いたウクライナのドローン製造の実状、相互依存を武器化してきたロシアに対しての欧州諸国の対応、中国の無人機開発の現状や宇宙利用について詳細に解説した。とくに、中国では宇宙を戦略的核兵器と同義に捉えており、中国の実験衛星『実践20号』には他国の衛星ネットワークを軌道から引き離す技術があり、電磁波やレーダーを使った妨害が現実のものとなりつつあることに言及。核抑止に加えて通常兵力でも米国を上回ることを目指し、中南米への関与を拡大していることに米国が警戒感を示していることに触れ、「わが国も対応が不可欠」と述べた。