10月11日「政民東京會議」講師/杉山 晋輔 元外務事務次官・元駐米大使・外務省顧問・早稲田大学特 命教授

2024年10月11日
  

「アメリカ大統領選挙と国際情勢」

 今回の米大統領選ほど予想がつかない選挙はない。日本と異なり、不在者投票が全体の25%近くに達する米国では、来月5日に投開票が始まるが、結果が出るのは中旬頃までかかるだろう。鍵を握るのは4〰5万人の選挙人といわれる。日々情勢が変わっているが、議事堂乱入事件のような暴力沙汰に米国民はうんざりしており、ハリス陣営有利ともみられるが、ハリス陣営の具体的政策は不明だ。英国でもそうだったように、民主党陣営は選挙に勝つまでは団結するが、勝利後の政策が具体性に欠ける傾向にある。その点、トランプが選ばれた場合はわが国としても8年前の安倍政権時の人脈もあり、見通しが立てやすい。

 どちらが選ばれたとしても、米国外交の最優先課題が中国であることは間違いない。わが国は、8年前に当時の安倍総理がどの国よりも早くトランプ氏との90分対談を行い、先手を打つことに成功した。習近平政権が3期目に入ろうが、次の選挙で石破氏が再選されようが、米国だけが世界情勢を振り回すことに変わりはなく、わが国は日米首脳会談の調整など先手を打つことが重要だ。

 第2次安倍内閣の下で 外務事務次官、安倍・菅義偉政権で駐米大使を務めた杉山氏。イランのアメリカ大使館人質事件で、当時のカーター大統領がレーガンに敗北したことが人質解放の契機になったことに言及し、ロシア・ウクライナ戦争の停戦の契機が米大統領選になり得る可能性を示唆した。

 その後の質疑応答では大統領選の行方、対中政策などに質問が及び、活発なやり取りが行われた。ハリスが当選した場合の具体的政策について質問が及ぶと、「議会と全面対立することになれば国がもたない。リベラルなハリスも現実的な中道路線にシフトせざるを得ないのではないか」と予想した。次期大統領がどちらになるかについては、「ハリスは上院の民主党員にも人気がないが、トランプだけは嫌という層もあり、難しい」としながら、「現時点では失言などのオウンゴールがなければ僅差でトランプになるのではないか」と述べた。このほか、日本の対中外交については「台湾との経済関係を強化したうえで中国との対話を進めるなど、複合的な視点が必要」と語った。